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原題 | 原題 ALL IS TRUE |
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制作年・国 | 2018年 イギリス |
上映時間 | 1時間41分 |
監督 | ケネス・ブラナー |
出演 | ケネス・ブラナー、ジュディ・デンチ、キャスリン・ワイルダー、リディア・ウィルソン、イアン・マッケラン、ハドリー・フレイザー、ジャック・コルグレイブ・ハースト他 |
公開日、上映劇場 | 2020年3月20日(金)~シネ・リーブル梅田、3月21日(土)~京都シネマ、4月3日(金)~シネ・リーブル神戸ほか全国順次ロードショー |
文豪の秘密と心のすきま風に迫る、
長年かけて育んだ情熱の結晶
時は1613年6月29日、ロンドンの有名劇場・グローブ座が焼け落ちた。ウィリアム・シェイクスピア作『ヘンリー八世』上演中のことで、演出のために用意された大砲から発火したのだ。これに大きな衝撃を受けたシェイクスピア(ケネス・ブラナー)は断筆を決意、家族が住む故郷のストラットフォード・アポン・エイヴォンに帰った。ところが、シェイクスピアが20年以上もいわば単身赴任のようにロンドンで仕事をしてきたため、「亭主元気で留守がイイ」状態だった妻のアン(ジュディ・デンチ)をはじめ、未婚の次女ジュディス(キャスリン・ワイルダー)、結婚している長女のスザンナ(リディア・ウィルソン)など、心から喜んで彼の帰還を受け入れたとは言い難い。さらに、ジュディスの双子の弟で17年前に11歳で亡くなったハムネット(サム・エリス)のために庭を造ると、シェイクスピアが宣言したことから、家族の過去のトラウマを引き出すことになる…。
監督・主演のケネス・ブラナーは、10代の頃からシェイクスピアに魅せられてきた、たぶん誰にも負けない“シェイクスピア・オタク”。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの一員として多くの舞台に立ったほか、映画でも『ヘンリー五世』『から騒ぎ』『ハムレット』ほかの作品に、出演俳優や監督として名を刻んできた。シェイクスピア本人を演じる本作は、まさに彼のライフワークの頂点ともいえよう。
私は、映像の美しさにまず惹かれた。じっくりと吟味され計算され、ブラナーの美意識を感じさせる絵画的な映像は、観る者をたちどころに17世紀の世界に連れて行ってくれる。陰影の深い室内のシーンはろうそくの灯りだけで撮影されたと聞く。そして、名優たちの競演も大きな見どころだ。突然帰ってきた夫に、長年のあれやこれやを絡めて嫌味の一つも二つも言いたくなる妻のアン。ジュディ・デンチはアンの中でくすぶり続けるものの色あいを的確に見せてくれた。この夫妻の間で交わされる言葉は、現代の夫婦にも相通じるものがあるなあ。
また、思わず引き込まれたのは、イアン・マッケランとブラナーのダイアローグのシーンだ。シェイクスピアと、ある特別な関係があったサウサンプトン伯爵を演じているのがマッケランなのだが、ここはじっくりと目を見開き、耳を澄ませて、“間”を大事にする素晴らしい台詞回しを味わってほしい。
父親や双子の弟に対して屈折したものを抱え込みながら生きてきた次女の悲しさ、悔しさにも胸を打たれる。外ではエラい人なのに、家庭ではアカンタレというのは、よくある話だ。著名な作家という面にでなく、私人としてのシェイクスピアに照準を合わせた家族の物語は、すったもんだを引き起こしつつも、しみじみとした結末へと着地する。何かしら一抹の清々しさが残った。
(宮田 彩未)
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