原題 | 原題:Celle que vous croyez 英題:Who you think I am |
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制作年・国 | 2019年 フランス |
上映時間 | 1時間41分 R15+ |
原作 | カミーユ・ロランス(「Celle que vous croyez」2016年刊行ガリマール出版社) |
監督 | 監督・脚本:サフィー・ネブー(共同脚本:ジュリー・ベール) 音楽:イブラヒム・マーロフ |
出演 | ジュリエット・ビノシュ、ニコール・ガルシア、フランソワ・シビル、マリー=アンジュ・カスタ、ギョーム・グイ、クロード・ペロン |
公開日、上映劇場 | 2020年2月21日(金)~シネ・リーブル梅田、2月29日(土)~京都シネマ、3月20日(金)~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開 |
“若い私”が“わたし”を取り戻す。
眼差しだけで多くを語れる、
ジュリエット・ビノシュならではの映画。
『存在の耐えられない軽さ』(1988年)でスクール水着姿のジュリエット・ビノシュを初めて見て以来、『ポンヌフの恋人』や『トリコロール/青の愛』に『イングリッシュ・ペイシェント』『ショコラ』『アクトレス』など実に数多くの作品を注目して観て来た。どの作品でも、熱き情熱を秘めた女性の奥深さを品よく感じさせてくれる名優だ。そんなジュリエット・ビノシュの『真実』『冬時間のパリ』に続く新作『私の知らないわたしの素顔』は、「もう若くはないが老いたつもりもない」という50代女性の残り火を、インテリジェンスあふれる大人の美しさとセクシーさで魅了する。
あなたは街中のショーウィンドウや鏡に映った自分の姿を見て何を思うだろうか?「まだイケてる?」、それとも「老けたな~」とがっかりする?もう男性からの視線を感じることもなく、存在すら無視されてしまいそうな…「はいはい、私は透明人間でございます」と諦めの境地でいると楽なのだろうが、男女とも実年齢より若く見える昨今、30代はまだ青年期、40代も多分まだイケてる、50代でようやく残酷な現状が身に沁みるようになる。そう、現代では40代ではなく、50代が「不惑の年」となっているようだ。
そんな50代に突入したクレール(ジュリエット・ビノシュ)は、パリ在住のバツイチ。大学で文学を教える作家だが、精神分析医のカウンセリングを受けている。新たに赴任したボーマン医師(ニコール・ガルシア)に初めから自分の話をするよう促され、少々うんざりしていた。なぜカウンセリングを受けるようになったのか?クレールが抱える問題とは何なのか?
事の発端は、クレールが20以上歳下の建築家のリュド(ギョーム・グイ)にあっけなく振られたことだった。リュドへの当てつけのようにFacebookで自分を「24歳のクララ」と偽り、彼の同居人であるカメラマンのアレックス(フランソワ・シビル)と繋がって疑似恋愛を始める。求められるままに若くて美しい他人の写真まで送って、優しくセクシーなクララを演じることに無我夢中になる。片時もスマホが手放せなくなり、2人のティーンエイジャーの息子に呆れられるほど。それはもう身もだえするようなトキメキと高揚感は身も心も開放し、クレールを美しく若返らせる。
ところが、堪りかねたアレックスが急にパリにやって来るという。慌てたクレールも駅へ向かい、お互いのスマホの位置情報で接近し合うが、クレールがアレックスの目の前に立っていても、彼は気付かない。そう、アレックスが捜し求めているのは若くて美しいクララなのだ。自分は「まだイケてる」と思っていたクレールだったが、実際にはアレックスの視界にも入らない存在なのだ。残酷だがそれが現実なのだ。
その後もクララとして嘘を重ねて会えない言い訳をしていたが、突然交信が途絶えてしまう……。その後の展開には、クレールも観客も予想だにしなかった結末が用意されていた。だが、安直なストーカーものではない。それではイザベル・ユペール(66)の映画になってしまう。本作はジュリエット・ビノシュ(55)の映画なのだから、その後も語られる複雑な展開はクレールが抱える真実をあぶり出していく。女として、切なく共感せずにはおられない。
精神分析医のボーマン医師もまた、年齢に抗うようなクレールの度の過ぎた行動と結末に驚嘆しながらも、クレールが思考する真意を模索していた。常に冷静沈着にクレールが語る話に耳を傾け、その動機と心情を細かに尋ねては、本作のテーマを導き出していく。ボーマン医師を演じたニコール・ガルシア(73)は、女優だけでなく監督としてのキャリアも長く、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の『ヴァンドーム広場』やマリオン・コティヤール主演の『愛を綴る女』などを手掛けている。
若い男性を夢中にさせ、自らも恋の魔法で若返っていく。だが、この魔法はいずれは解けてしまう。以前より増して惨めで残酷な結末が待っているかもしれない。理性より情熱で生きられる女性は破滅型かもしれないが、その勇気ある生き方は羨ましいとさえ思う。誰かを傷つけたり不倫でない限り、恋してもいいのでは?と、ジュリエット・ビノシュ演じるクレールを見ていて、心に恋の炎がある限り、誰かと愛し合えるなんて、人生謳歌しているようで素晴らしいことだと思えてきた。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://watashinosugao.com/
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