原題 | 37seconds |
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制作年・国 | 2020年 日本 |
上映時間 | 1時間55分 |
監督 | 監督・脚本:HIKARI |
出演 | 佳山 明、神野三鈴、大東駿介、渡辺真起子、熊篠慶彦、萩原みのり、芋生遥、石橋 静河、尾美としのり、板谷由夏 他 |
公開日、上映劇場 | 2020年2月7日(金)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他全国ロードショー |
~脳性マヒ、ユマの“しなやかな独り立ち”~
「事実の創造的劇化」とは――本来、優れたドキュメンタリー映画を現す言葉である。今村昌平監督の衝撃作『人間蒸発』(67年)や小川紳介監督『日本解放戦線 三里塚の夏』(68年)シリーズなど当時、日本映画をリードする最先端の芸術運動でもあった。あれから半世紀、時代は移り、劇映画でありながら本物のリアリティをまざまざと感じさせる映画に出会った。さながら優れたドキュメンタリー映画を見るようだった。常識などコロっと変わるから面白い。
映画のタイトルは『37セカンズ』。母親の出産時、37秒間息をしなかったことから“脳性マヒ”になり障害に苦しみながらも、懸命に前を向いて生きる若い女性の物語。ヒロイン貴田ユマに23歳の佳山明。当初、女優の起用が検討されたが 「健常者が障害者を演じる」ことに疑問を抱いた監督の英断で敢えて100人の候補から、本当の脳性マヒの女性・佳山明が選ばれたという。監督の決断から“ドキュメンタリーのような映画が出来た。監督の慧眼と本物のリアリティがもたらした“快挙”。本物に勝るものはない。
東京郊外に暮らす貴田ユマ(佳山明)はシングルマザー恭子(神野三鈴)と二人暮らし。恭子は障害を抱えるユマの面倒を見るため、熱心過ぎてユマには少々疎ましくもある。彼女は、親友で漫画家のSAYAKA(萩原みのり)のゴーストライターをしているが、実際はほとんどがユマのアイデア&絵で、それは二人だけの秘密だった。障害者ゆえに、主役を親友に譲り、自分は影に控えるユマが何とも切ない。ユマも「自分の名前で大好きな漫画を描きたい」と思っているが、SAYAKAの担当編集者は「メチャクチャ素晴らしいが、SAYAKA先生に似過ぎている」とあっさり却下。中でもこたえたのはアダルト系コミック社の編集長(板谷由夏)から言われた、「想像だけで描いた作品はリアルさに欠ける」というひと言だった。かくて、ユマの少々痛々しいセックス探究の旅が始まる。
実際に脳性マヒの女性がどんな状態なのか、定かではないが、車いすでトコトコと走る?ユマに思わず「頑張れ。負けるな」と声をかけたくなる。ユマは母親の目を盗んで“夜の街”探訪を始める。大人のおもちゃ屋で初めて見たおもちゃにびっくりしたり、親切な呼び込みの男(渋川清彦)にプロの男性を手配してもらって、夢だった体験寸前まで行くが、あろうことか自然現象に邪魔されて果たせずに終わる。何と…。
リビドーは誰にもついて回る“宿業”か。健常者なら難なく乗り越えられる障害の何と大きいことか。ユマのきわめて人間的な行動を見ると、〈やまゆり学園〉の大量殺人犯がいかに非人間的な所業か分かろうというものだ。絶対許せない!
ユマの自分探しはまだ続く。介護福祉士・俊弥(大東駿介)と出会い、昔出て行った父親を絵を頼りに探そうとする。そして、びっくりするような情報を得て、俊弥に頼み込んで、これまでなら考えられないような大冒険の旅に出る。
思わぬ家族と出会ったユマは、“37秒間”の秘密を聞き、「短い時間で体に障害を抱えてしまった自分は、1秒でも早く生まれていたら、人生は180度違うものになっていたんだ」と改めて認識する。だが、様々な人との出会いを経て、一回りも二回りも大きく成長した彼女は、“私は私で良かった”と最後に決断を下す。人間として大きく様変わりして見せたユマの“その瞬間”こそが最大の見どころ。ユマの曇りのない表情がまぶしいほど輝いて見えたのは決して気のせいではないだろう。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://37seconds.jp/
(C)37Seconds filmpartners
配給:エレファントハウス