原題 | TEEN SPIRIT |
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制作年・国 | 2018年 アメリカ |
上映時間 | 94分 |
監督 | 脚本:マックス・ミンゲラ |
出演 | エル・ファニング、ズラッコ・ブリッチ、レベッカ・ホール他 |
公開日、上映劇場 | 2020年1月10日(金)~シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、MOVIXあまがさき、OSシネマズハーバーランド他全国順次公開 |
~オーディションで世界を目指せ!
エル・ファニングの等身大の魅力が焼きつく青春音楽映画~
昨年のカンヌ国際映画祭で、史上最年少の21歳にしてコンペティション部門の審査員を務めたエル・ファニング。彼女が今まで演じてきた役柄で、一般的に有名なのは『マレフィセント』シリーズのオーロラ姫ではないだろうか。だが、それ以外でも『ガルヴェストン』や『ネオン・デーモン』などのホラー、スリラー映画、『メアリーの総て』などの歴史映画、さらに『パーティで女の子に話しかけるには』では宇宙人、『アバウト・レイ 16歳の決断』ではトランスジェンダー役とかなり個性的な設定や役を演じ続けてきた。そんなエル・ファニングがついに等身大の女学生役を演じるのだから、逆にとても新鮮に感じる。ただ今回も内面的に大きなチャレンジが必要な役なのは、映画を観ればヒシヒシ感じられることだろう。80年代青春音楽映画をリアルタイムで体験した世代にはどこか懐かしく、またエル・ファニングと同世代には夢を掴むため、田舎から世界へ羽ばたく姿に勇気付けられること間違いなしの映画初めにふさわしいクールな映画だ。
イギリスの南にある小さな島、ワイト島で母と二人暮らしのポーランド移民の娘、ヴァイオレットは、友達も少なく、心の支えは大好きな音楽だ。バイト先のパブのステージでヴァイオレットが歌っていると、客の老人でクロアチア出身の元オペラ歌手ウラドがその歌声を褒めて讃えた。歌への自信を深めたある日、国際的な人気を誇るティーンエイジャー向けの公開オーディション「ティーンスピリット」の広告を目にしたヴァイオレットは、意を決して参加、二次予選に付き添いとしてウラドを指名し、二人で頂点を目指す闘いが始まるのだった…。
本作が初監督作となる俳優のマックス・ミンゲラは、父親が生まれ育ったワイト島を舞台に据え、脚本を書いたという。島ならではの小さなコミュニティの中では、ヴァイオレット親子やウラドのような移民が馴染みにくい雰囲気もあるのだろう。家ではポーランド語で会話し、外では少し訛りの入った英語を話す17歳のヴァイオレットは、まだ大輪が花開く前の、まさに原石だ。大自然や田舎のパブから、地元のオーディション会場と、だんだん舞台が本格的になっていくにつれ、ヴァイオレットの歌にも魂が少しずつ宿りはじめる。精神面と歌唱面で細やかな表現が必要なヴァイオレット役を、エル・ファニングは自然体の中にも強い芯を感じる演技で魅せてくれる。
もう一つの見所は、ヴァイオレットの歌唱指導と付き添いで、ロンドンで行われる本戦まで同行するウラドと築く、どこか父娘にも見える師弟関係だ。自身もパリにいる娘に会えずにいる複雑な事情を孕んだウラドが、金のなる実に目ざとく飛びついてくる音楽業界の甘い誘いからヴァイオレットを守ろうと奮闘する。テレビで全世界に放映される本戦の煌びやかな姿の裏で繰り広げられるドラマや、町中の人がテレビの前に集合しヴァイオレットの登場を今か今かと待つ姿など、様々な思いが重なってのクライマックスは、その見事なパフォーマンスに圧倒されること間違いない。ミュージカル映画の新しい傑作となった『ラ・ラ・ランド』のスタッフが再結集した本作では、ヨーロッパ系シンガーのポップ・ミュージックを中心に、エル・ファニング自らが劇中シーンで歌っている。既に主演作も数多いエル・ファニングだが、10代最後に等身大の輝きを焼き付けた作品として、『ティーンスピリット』は彼女のフィルモグラフィーで永遠に輝くことだろう。
(江口由美)
公式サイト⇒:https://teenspirit.jp/
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