原題 | THE MAN WHO KILLED DON QUIXOTE |
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制作年・国 | 2018年 スペイン/ベルギー/フランス/イギリス/ポルトガル |
上映時間 | 2時間13分 |
監督 | テリー・ギリアム (『未来世紀ブラジル』『ラスベガスをやっつけろ』) |
出演 | アダム・ドライバー、ジョナサン・プライス、ステラン・スカルスガルド、オルガ・キュリレンコ、ジョアナ・リベイロ他 |
公開日、上映劇場 | 2020年1月24日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ二条他全国ロードショー |
構想30年の未完成映画がついに完成!
主人公たちはテリー・ギリアムの分身!?
ついに、ついに完成!一観客の私ですらそう思うのだから、テリー・ギリアム本人はどんな心持ちだったことだろう。私が子育て中のため映画館で新作を観ることができなかった頃、深夜のテレビ枠で放映された『妹の恋人』でジョニー・デップにどハマりし、熱烈ファンになってから初めて劇場鑑賞できたジョニーの最新作が、03年に公開されたテリー・ギリアム監督のドキュメンタリー『ロスト・イン・ラ・マンチャ』だった。途中まで撮影したものの、天災に見舞われた挙句、主演のドン・キホーテ役だったジャン・ロシュフォールが腰痛で馬に乗れなくなり、撮影中止に追い込まれる…。そんな前代未聞の撮影頓挫ドキュメンタリーを観ながら、いつ完成するのか半信半疑ながらも、ずっとチェックし続けていたのだ。
あれから15年以上経ち、キャストは変わったものの、逆にこの二人で撮影できるようになるのを待っていたのかと思うぐらいベストな布陣になったのではないか。なにせ、今年のアカデミー主演男優賞にノミネートされている実力派俳優、アダム・ドライバー(『マリッジ・ストーリー』)とジョナサン・プライス(『2人のローマ教皇』)の、まさに夢の競演なのだ。しかも、そんな二人がテリー・ギリアムワールドを体現する役回りを全身全霊で演じているのだから、その熱量は半端じゃない。壮大な妄想世界が映し出す歓喜と悲哀を、たっぷり味わってほしい。
スペインで巨大なセットを組み、撮影をしていたCM監督のトビー(アダム・ドライバー)は、撮影がうまく進まず、苛立ちを募らせる。トビーのボス(ステラン・スカルスガルド)は参考になればとあるDVDを手渡すが、それはトビーが学生時代に撮った映画『ドン・キホーテを殺した男』だった。舞台となった“夢の村”を再訪したトビーは、かつての輝きを失った村の様子に愕然とする。当時、村の美少女、アンジェリカ(ジョアナ・リベイロ)を口説き落とし出演してもらったが、その後のアンジェリカは女優の夢を叶えるべくマドリッドに行ったまま鳴かず飛ばずだという。いたたまれずにその場を離れたトビーは、「キホーテは生きている」という看板を目にする。かつてドン・キホーテを演じた靴職人の老人ハビエル(ジョナサン・プライス)は、その衣装のまま小屋に閉じ込められていた。本物のドン・キホーテと信じて疑わないハビエルは、再会したトビーを従者のサンチョと思い込み、強引にトビーを連れて冒険の旅へと繰り出すのだったが…。
スペインの荒野に置かれた巨大な頭部や手のひらのオブジェが実にシュールな味わいを醸し出すオープニング部分からして、テリー・ギリアム節全開!ビジネスミーティングの後ろで本物のフラメンコ演奏&踊りをしっかりと写り込ませ、聖者の祭りや一年の不要物を燃やす儀式など地元の慣習を盛り込み、ドン・キホーテが誕生したスペインの精神がムンムンと伝わってくる。中世の騎士がそのまま現在に蘇ったようなハビエルを、ジョナサン・プライスが実に堂々と気高く演じ、最初はただコミカルに見えたハビエルが、だんだん本物のドン・キホーテに見えてくる。そんなハビエルに、従者と勘違いされ続け、とにかく振り回されるトビーを演じるアダム・ドライバーの巻き込まれぶりも見事!しかも、あざとさがなく、金の力には逆らえない俗人ぶりも嫌らしさ控えめで、いい塩梅なのだ。
映画は時に夢を叶えるものであり、時に人の運命を狂わせる。ドン・キホーテを演じたことがきっかけで、ドン・キホーテを名乗り続けたハビエルからは、そこに生きる力を見いださざるをえなかった男の悲哀が滲み出ていた。ドン・キホーテをテーマにしたデビュー作以降ヒット作を作れなかったトビーも、無意識のうちにドン・キホーテに囚われていたのではないか。そして本作のテリー・ギリアム監督自身が、誰よりもドン・キホーテにこだわり続けていたのだ。まるで監督の分身のようなキャラクターが、ファンタジーあり、アクションありの大冒険に挑んでいるような、ある意味非常に哲学的でもある映画。皮肉な運命に抗い、夢と現実を彷徨う自称ドン・キホーテは、時代を超えた人間の願望を映し出しているようにも見えた。
(江口 由美)
配給:ショウゲート
公式サイト⇒:http://donquixote-movie.jp/
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