制作年・国 | 2020年 日本 |
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上映時間 | 1時間45分 |
原作 | 織守きょうや「記憶屋」(角川ホラー文庫刊) |
監督 | 監督:平川雄一朗 脚本:鹿目けい子 /平川雄一朗 音楽:高見 優 主題歌:「時代」中島みゆき(ヤマハミュージックコミュニケーショ |
出演 | 山田涼介 芳根京子 泉里香 櫻井淳子 戸田菜穂 ブラザートム 濱田龍臣 佐生雪 須藤理彩 杉本哲太 / 佐々木すみ江 田中泯 蓮佛美沙子 佐々木蔵之介 |
公開日、上映劇場 | 2020年1月17日(金)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他全国ロードショー |
~“都市伝説”の「記憶屋」は孤独な人の希望~
人には“忘れたい記憶”がある。つらい記憶を消してくれる「記憶屋」がいる、と聞けば「会ってみたい」と思うだろう。“忘れたい男”が、記憶屋に会うにはどうすればいいか? いるかどうか分からない“都市伝説”を探す男というメルヘンチックな物語は、様々に複雑な人間ドラマを奏でる。 50万部を突破した織守きょうやのベストセラーを平川雄一朗監督が映画化した『記憶屋―あなたを忘れないー』は、多くの人の胸に迫る。
大学生の、遼一(山田涼介)は、恋人・杏子(蓮佛美沙子)にプロポーズし、オーケーしてもらって幸せの絶頂にいた。だが、その翌日から杏子と連絡が取れなくなる。数日後、偶然に駅で杏子を見かけて声をかけると、杏子はけげんな顔で「あなたは誰?」。酔っ払いや高齢者ならよくあることだろうが、彼女はなんと遼一を一切覚えていなかった…。
困った彼は、都市伝説とされる“記憶屋”の存在を知り、幼なじみの真希(芳根京子)とともに弁護士・高原(佐々木蔵之介)を尋ね、記憶喪失の原因を探る。高原もまた、ひとり娘のためにある記憶を消したいと、切に願っていた。そして遼一もまた、同じ経験をしたことがあった…。
「緑色のベンチに現れる」といった都市伝説=記憶屋の正体に近づくにつれ、遼一は多くの人が記憶屋に救われていることを知る。としたら、なぜ杏子から遼一の記憶が消えてしまったのか?――様々に切ない挿話に、引き込まれる。高原弁護士は「娘の記憶を消したい。それが娘にしてあげられる唯一のこと」という。
記憶をモチーフとする映画は少なくない。先ごろは総理大臣(中井貴一)が記憶喪失になる『記憶にございません』というコメディが評判を呼んだし、今の“一強総理”もしばしば記憶屋に襲われたのではないかと邪推してしまうことばかり。
『明日の記憶』(06年)では渡辺謙が50歳でアルツハイマーに侵される苦悩を演じて評判を呼んだ。妻(樋口可南子)に支えられながら、名前を聞いて「いい名前ですね」と答える“忘れっぷり”には笑えないリアリティがあった。若者たちにも同様。長澤まさみ主演の『50回目のファーストキス』(18年)は1日経てば記憶をすっかり忘れてしまう不思議な女の子のラブストーリーだった。
普段、意識することは少ないが、記憶は生活するのにきわめて大事な要素。そのために人びとは写真を撮り、アルバムに整理し、日々日記をつけたりもする。より多くの記憶が出来る「記憶力」のいい人はうらやましい。人間は「記憶によって生きている」のかも知れない。後期高齢者たちが同じ話ばかりを繰り返すのは、逆の意味で「記憶屋」の仕業ではないか。
「記憶屋」の謎に迫るサスペンス、というよりもややノスタルジックな味わいの謎解き。若者代表というべき主演の山田涼介は記憶屋の能力について、「(記憶屋は)僕はいらないです。つらい記憶も含めて自分の人生だから。遼一に近いかもしれませんね。記憶はわざわざ消すものじゃないし、僕はいやな記憶も含めて、消したくない」。
ところで平山監督の作品『ツナグ』(10年)もまた、都市伝説を扱った映画だった。こちらは、死者と生者を会わせる、不可思議な能力を祖母から家の伝統として受け継いだ者の物語。『記憶屋』も『ツナグ』も生きるよすがを見失いつつある人びとへ希望を、せめての思いで映画に託しているのかもしれない。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ https://kiokuya-movie.jp/
©2020「記憶屋」製作委員会