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『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』

 
       

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作品データ
原題 Fisherman's Friends
制作年・国 2019年 イギリス
上映時間 1時間52分
監督 【監督】クリス・フォギン(『キッズ・イン・ラブ』) 【製作・脚本】メグ・レナード&ニック・モアクロフト(『輝ける人生』) 【音楽】ルパート・クリスティー(『マンマ・ミーア!』『コントロール』)
出演 ダニエル・メイズ(『シンクロ・ダンディーズ!』)、ジェームズ・ピュアフォイ、デヴィッド・ヘイマン(『輝ける人生』) デイヴ・ジョーンズ(『わたしは、ダニエル・ブレイク』)、サム・スウェインズベリー、タペンス・ミドルトン、ノエル・クラーク
公開日、上映劇場 2020年1月10日(金)~テアトル梅田、なんばパークスシネマ、1月17日(金)~シネ・リーブル神戸、2月1日(土)~京都シネマ、 他全国順次公開


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~「おっさんパワー」を炸裂させる漁師の合唱団~

 

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先の総選挙で、EU離脱が現実化してきたイギリス(英国=連合王国=UK)。その大部分を占めているイングランドの南西部ににょきっと突き出た半島があります。そこがコーンウォール州です。行政区分ではイングランドですが、“国境”のタマール川を越えると、ガラリと空気が異なります。なにせこんな表記が目につくのですから。

 

 

 

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表記の日本語訳は、「ケルトのコーンウォール」と「イングランドはブリテン(英国)の一部やけど、コーンウォールはイングランドの一部とちゃいまっせ」。「KERNOW」とは、ケルト語の一種コーンウォール語で「コーンウォール」のことです。その言語は18世紀末に最後の話し手が亡くなり、滅んでしまったけれど、現在、地道に復興運動が行われています。


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(バード(古代の吟遊詩人)のコスチュームで行進)


コーンウォールは元々、ケルト系ブリトン人の地で、5世紀にヨーロッパ大陸からイギリス本島へ渡来してきたゲルマン系アングロサクソン人とは一線を画してきました。このときサクソン人と果敢に闘ったブリトン人戦士をモデルにしてアーサー王伝説が生まれたのです。恒例行事の『ゴーゼス・ケルノー(コーンウォールの集い)』では、今なおアーサー王が称えられています。このようにアイルランドやスコットランドなどと共に〈ケルト文化圏〉の一翼を担っているのです。
 

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(聖剣エクスカリバーを差し出し、「アーサー王は死なず!」と宣言)


本作は、そんなコーンウォールの北海岸にある港町ポート・アイザックを舞台にしたヒューマン音楽映画です。上記の歴史的背景を踏まえてご覧になれば、作品の面白さが倍増すると思います。


fishermans-song-500-6.jpgポート・アイザックの北東10キロにアーサー王が生まれたとされるティンタジェル城があり、この辺りはアーサー王伝説が息づいています。「ケルト」の取材でコーンウォールを訪れたときバスでこの町を通過し、「えらいコジャレた町やな」と思ったのを鮮明に覚えています。


fishermans-song-500-1.jpgそろいのPコートにジーンズ姿、ワークブーツを履いてポケットに両手を突っ込みながら舟歌や民謡を歌う10人の男たち。彼らは漁師の合唱団「フィッシャーマンズ・フレンズ」。赤っぽく日焼けし、いかにも「海の男」といった面構えがめちゃめちゃカッコええ! もちろん、全員がコーニッシュ・マン(コーンウォール人)とあって、郷土愛が人一倍強い。


あごヒゲをたくわえた存在感満点のリーダー、ジム(ジェームズ・ピュアフォイ)、毒舌家のジェイコブ(デヴィッド・ヘイマン)、パブの経営者でもある最年少のローワン(サム・スウェインズバリー)……、みなひと癖ありそうだけれど、心根は優しい。ぼくがコーンウォールで出会った人たちも本当に親切にしてくれました。


fishermans-song-500-4.jpgそんな彼らをイングランド人の音楽マネジャー、ダニー(ダニエル・メイズ)がメジャーデビューさせようと奮闘するのです。当初は上司から冗談半分で言われた業務命令を真に受けてやり始めたことなのですが、「フィッシャーマンズ・フレンズ」の歌声に惚れてからはどんどん本気モードになっていきます。


ところが冒頭で述べたように、コーンウォール人にとってイングランド人は「よそ者」。なかなか胸襟を開いてくれません。というか、ちょっとイケズをしはります。パブで「ラガー(日本と同じタイプのビール)をちょうだい!」とダニーらが注文すると、「うちはエール(コクのある上面発酵ビール)しかありまへん」とすげない。


fishermans-song-500-7.jpgこんな具合に事あるごとにイングランド人を茶化すのです。極めつけは、イギリス国歌『ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン』を歌わねばならないところを、平然と“コーンウォール国歌”を合唱するシーン。彼らにとっての国歌はこれしかないのだから、仕方がない。こうした「イングランド対コーンウォール」の図式が映画の通奏低音になっているところがすごく面白かった!


fishermans-song-500-3.jpgダニーと彼が宿泊したB&B(朝食付きの民宿)の経営者で、シングルマザーのオーウェン(タペンス・ミドルトン)との恋愛模様、町唯一のパブの経営的危機などを絡めながら、合唱団が全英で大人気を博していく様子がコミカルに描かれていきます。クリス・フォギン監督の演出は長編2作目とは思えないほどこなれていました。


fishermans-song-500-2.jpgこの話、100パーセント実話です。2010年に「フィッシャーマンズ・フレンズ」がデビュー。アルバムが全英でトップ10入りを果たし、今でも出演オファーが相次いでいるそうです。まさにサクセス・ストーリーですね。当然、イギリスではこの映画が大ヒット! 本作では俳優が実際に喉を披露していましたが、何人かホンモノの漁師さんを加えてほしかったなぁ~。


彼らのサウンドは何とも素朴です。よくよく聴くと、ちゃんとハモっていて、レベルはかなり高い! 男性合唱といえば、お隣(方角的には北)のウェールズがよく知られていますが、コーンウォールも負けていませんね。郷土愛に基づく「おっさんパワー」の歌声はオールマイティーでした!


武部 好伸(エッセイスト)

公式サイト⇒ https://fishermans-song.com/

© FISHERMAN FILMS LIMITED 2019

 
 

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