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『家族を想うとき』

 
       

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作品データ
原題 SORRY WE MISSED YOU  
制作年・国 2019年 イギリス・フランス・ベルギー合作
上映時間 1時間40分
監督 ケン・ローチ
出演 クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター、ロス・ブリュースター他
公開日、上映劇場 2019年12月13日(金)~ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル梅田、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸ほか全国順次ロードショー

 

厳しい現実に翻弄される家族の姿、

それを見つめる監督のまなざしに打たれる

 

『麦の穂をゆらす風』(2006年)『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016年)と、二度のカンヌ国際映画祭パルムドールに輝いた1936年生まれのケン・ローチ監督。『わたしは、ダニエル・ブレイク』こそが最後と、二回目の引退表明をしていたが、それをまたもや撤回して「どうしても撮りたい」という思いにかられて作り上げたのが、この映画。家庭の収入を増やそうと働き手が頑張れば頑張るほど、家族が一緒になれる時間が減っていくという悲しい現実、そこから吹き出てくるさまざまな問題をあぶり出し、日本に生きる私たちも共感できる要素がいっぱい。ラストシーンでは、ぐいっと胸を突かれるほどだ。


kazokuomou-500-3-1.jpgイギリスのニューカッスル。4人で暮らすターナー家の父親リッキー(クリス・ヒッチェン)は、マイホーム購入という夢を果たすため、大手配送業者のフランチャイズのドライバーとして独立することになった。それは、時間との勝負を迫られる苛酷な仕事であることがだんだんと身にしみてくる。一方、リッキーの妻アビー(デビー・ハニーウッド)は、パートタイマーの介護福祉士として働いているが、一家に2台もの車を所有する余裕がないため、自分が使っていた車を夫のために手放し、待ち時間の長いバスを利用せざるを得なくなった。こうして、夫婦ともに家で過ごす時間が激減。高校生の息子セブ(リス・ストーン)と、小学生の娘ライザ・ジェーン(ケイティ・プロクター)の心にすきま風が吹き始める…。


kazokuomou-500-2-1.jpg「自分の家を持ちたい」というのが、万国共通の家族の夢であるらしい(私はそうは思わないけれど)。家族が心豊かに過ごせるはずのその空間を手に入れるには、大きなお金を必要とする。だから、一所懸命に働く。しかしながら、低所得層は往々にして「長時間勤務なのに低収入」を強いられてしまう。そして、この家族のように、一緒に心豊かに過ごせる時間が減っていく。なんという皮肉だろうか。でも、これが現実なのだ。


kazokuomou-500-1-1.jpg仕事の厳しさによって、リッキーのストレスは増し、だんだんと表情が険しくなっていく。アビーは、介護する家へ通うための交通手段が本数の少ないバスとなって、帰宅できる時刻が遅くなり、疲れの色と苛立ちを増してゆく。「前の家族に戻りたい」という思いは長女の健気な献身となり、その裏返しのような長男の暴走行為となる。そして、優しく辛抱強いアビーがついに「私の家族をナメないで!」と、心に溜まった怒りを爆発させるシーンは鮮烈!弱者に向けた監督の厳しくも励ましを伴ったまなざしが窺える。ちなみに、リッキー役のクリス・ヒッチェンは20年以上配管工として働いたのち、俳優の道に進んだという異色の経歴を持つ。監督が彼を抜擢したのは、慧眼によるものだといえよう。


その場限りの薄っぺらい希望などで終わらせないケン・ローチ監督の入魂作。何度でも引退表明して、何度でも撤回して頂いて結構。強者がはびこるこの世界に、弱者の立場に立ったNO!を突きつける作品をまだまだ作ってほしいと思う。


(宮田 彩未)

公式サイト⇒ https://longride.jp/kazoku/

© Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019

 

 
 

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