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『私のちいさなお葬式』

 
       

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作品データ
原題 Karp otmorozhennyy  
制作年・国 ロシア 2017年
上映時間 1時間40分
原作 アンドレイ・タラトゥーヒン
監督 ウラジーミル・コット
出演 マリーナ・ネヨーロワ、アリーサ・フレインドリフ、エヴゲーニー・ミローノフ
公開日、上映劇場 2019年12月6日(金)~シネ・リーブル梅田、12月27日(金)~シネ・リーブル神戸、12月28日(土)~京都シネマ 他全国順次公開

 

母の愛、“海よりもまだ深く”

ちょっぴり可笑しくて切ない、愛あふれるロシア版「終活物語」

 

ロシアから届いた「終活物語」は、日本の歌謡曲のロシア語版「恋のバカンス」(ザ・ピーナッツのヒットナンバー)に乗って楽しそうに踊るおばあさんの物語。母の愛が強すぎるばかりに時に可笑しく、時に胸を締め付け、ほっこりと優しい気持ちになれる。さらに、地方と都会の格差や、年金生活を送る親世代と資本主義経済となって迷走する若い世代とのギャップ、ロシアの現状を垣間見ることもできる。そして、「幸せ」について問いかけてもいる。


osoushiki-500-5.jpg田舎で一人暮らしをしている73歳のエレーナ(マリーナ・ネヨーロワ)は、秋も深まるある日、医師をしている教え子から余命宣告を受ける…「心臓がいつ止まってもおかしくない状態にある」と。村にひとつしかない学校で長年教師をしてきたお陰で、未だに皆から「先生」と呼ばれている。病院からの帰り道、釣りをしていた教え子から大きな鯉を押し付けられ、取り敢えず冷凍庫へ入れた途端、心臓発作で倒れてしまう。


osoushiki-500-1.jpg都会で暮らす息子のオレク(エヴゲーニー・ミローノフ)が慌てて病院に駆け付けるが、大部屋にいるはずの母親を見つけられない。如何に長い間疎遠にしていたかが分かる。5年ぶりに帰って来た息子は、ひっきりなしに掛かってくる電話の対応に追われている。急いで帰ろうとするオレクの都合も聞かず、一方的にまくし立てては必至で引き留めようとするエレーナ。落ち着いて話す間もなく、息子は母親から逃げるようにして帰ってしまう。母親の孤独が滲み出るシーンだ。


その夜、不審な物音で目覚めたエレーナは、台所の流しで暴れている鯉を見つける。息子に食べさせようと解凍していた鯉が、何と息を吹き返したのだ。鯉をタライに移し、優しく話し掛けるエレーナ。つくづく息子は当てにできないと悟り、自分の葬儀準備をすることを決心。


osoushiki-500-2.jpg早速、墓地確保のため埋葬許可証をもらいに役所へ。すると死亡診断書がないと出せないと言われ、遺体安置所へ。まだ生きているのに死亡診断書をもらえるはずもないのだが、そこでまた教え子の登場…事情を話して協力してもらうことに。墓地の確保もでき、棺桶も買って、今度は葬儀の参列者に振る舞うご馳走の材料の買い出しに。そこで、かつては息子の彼女だったナターシャの変わり果てた姿を目にする。


osoushiki-500-4.jpgエレーナの不審な行動に気付いた隣人のリュドミラ(アリーサ・フレインドリフ)が駆け付け、何でも一人でやろうとするエレーナに「水くさいじゃないの!」と怒りをぶつける。それでも友人らをかき集めて、昔話に花を咲かせながらご馳走作りを手伝う。準備万端整って、あとは息を引き取るだけ…だが、そう都合よく死ねない!思い余って、夜中にリュドミラを叩き起こして、「殺して!」と懇願する始末。


osoushiki-500-6.jpg尋常じゃないエレーナを心配してリュドミラは息子のオレクに連絡する。ベッドに静かに横たわる母親を見て、さすがの冷淡息子もショックを受ける。ところが、……?


主人公のエレーナは、長年教師をしていたこともあり、博識で人望もある自立した女性だ。一人息子のオレクは都会で成功を収めている自慢の息子で、《ビジネス成功=幸せ》を指導する自己啓発セミナー界のカリスマ的存在になっている。だが、多忙過ぎてあまり幸せそうには見えない。最愛の息子と会えない寂しさを抱える母親と、成功しても幸せを実感できない息子。「あのまま村に残っていれば違う人生があったかも」とこぼす息子に、「村は老人とアル中ばかりよ!」と答える母。望み通りの道を歩んできたはずなのに……。お金だけでは幸せにはなれない、名誉でも権力でもない。どんな生き方をしようが、自分で「幸せ!」と感じる時間を如何に多く作り出せるか、各自の生きる姿勢を問われているように感じた。


osoushiki-500-7.jpgそれでも本作がシリアスになり過ぎない一番ユニークな点は、エレーナに転機が訪れる度に問題行動を起こす鯉の存在だ。ウラジーミル・コット監督は、来日した際見掛けた「鯉の滝のぼり」の絵にヒントを得たらしい。さらに、何と言っても、二人の伝説的女優マリーナ・ネヨーロワとアリーサ・フレインドリフに、オレク役の名優エヴゲーニー・ミローノフという、今回が初めてという奇跡的共演あってこその醍醐味が楽しめる。


(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://osoushiki.espace-sarou.com/

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