原題 | GRETA |
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制作年・国 | 2018年 アイルランド・アメリカ |
上映時間 | 1時間38分 |
監督 | ニール・ジョーダン |
出演 | イザベル・ユペール、クロエ・グレース・モレッツ、マイカ・モンロー、スティーヴン・レイ、コルム・フィオール他 |
公開日、上映劇場 | 2019年11月8日(金)~TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマ、京都シネマ、シネ・リーブル神戸ほか全国順次ロードショー |
スウィートからとんでもないビターへ!
じわじわと恐怖を増幅させるサイコ・スリラー
イザベル・ユペールというフランス人女優の凄さを改めて示した映画だと思う。世界の監督からオファーを受け、確実にキャリアを積んできたが、私は彼女の“あの目”にいつも惹きつけられる。時に優雅で美しく、時に得体のしれない恐ろしささえ放つ。人の心を見透かしてしまうかのような目の力だ。それゆえに、本作の役どころは、まさにうってつけと言えるだろう。
ニューヨーク。レストランでウェイトレスとして働いている若く明るいフランシス(クロエ・グレース・モレッツ)は、仕事帰りの地下鉄で、車内に置き忘れられたバッグを見つける。時間が遅く、駅の遺失物窓口が閉まっていたため、フランシスはバッグを持ち帰り、その中に入っていたIDカードを頼りに、持ち主の家を探し当てる。そこには、グレタ(イザベル・ユペール)という名の女性が一人で住んでいて、バッグが戻ってきたことをとても喜び、フランシスを自宅に招き入れた。夫を早くに亡くし、娘も遠くに住んでいるから寂しいというグレタと、最近母を亡くしたばかりのフランシスは、お互いの孤独に寄りそって親しくなっていく。グレタが意外な正体をさらけ出すまでは…。
グレタの家を最初に訪れた時、フランシスが不審に思った騒音の源は、映画の後半で明らかになるが、時にブラックなユーモアさえ感じさせるグレタの狂気、しつこさ、えぐさに唖然とする。その根底にあるものに思いを寄せると、それはそれで哀しいとも感じるのだが、ここまでエスカレートしていく人間の身勝手さには、ヘンな人が多すぎる(私もその一人かもしれないけど)現代社会の暗部がくっきりと投影されているのではないだろうか。いわゆるフツーに見える人が仮面を被っていて、周囲の人間は誰も気づかない、でも、実は犯罪にまみれていたり、常識を踏みにじるストーカーだったり。この映画では、フランシスの親切が仇になるってのも、怖い。見知らぬ人の生活に軽々と立ち入ってはいけませんよと、“良い子”に教える映画になるとしたら、ある意味で残念ではあるけれど。
達者なイザベル・ユペールに、丁々発止の演技を挑んだクロエ・グレース・モレッツを評価したい。また、ニール・ジョーダンの作品では、私の大好きな『クライング・ゲーム』(1992年)以降、常連となったスティーヴン・レイの顔が見えるのも嬉しかった。フランツ・リストの「愛の夢」という美しい楽曲が何度も執拗に奏でられ、この曲のイメージが変わってしまうのではないかというのも、これまたスリラーである。そして、物語の核心にあるのが、“ねじれた愛”なのかどうなのか、と観客に考えさせる、賞味期限の長い映画だと思う。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://greta.jp/
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