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『YESTERDAY イエスタデイ』

 
       

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作品データ
原題 Yesterday
制作年・国 2019年 イギリス
上映時間 1時間57分
監督 監督:ダニー・ボイル 脚本:リチャード・カーティス 原案:ジャック・バース&リチャード・カーティス
出演 ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズ、ジョエル・フライ、エド・シーラン、ケイト・マッキノン、ジェームズ・コーデン
公開日、上映劇場 2019年10月11日(金)~全国ロードショー

 

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~あゝ、羨ましい! ビートルズを独り占めできるなんて~

 

いきなり私事ですが……。《ちょかBand》というアコギ・ユニットを組んでおりまして(コミック・バンドと勘ちがいしてはる人が多いですが)、ライブでは必ずビートルズ・ソングを1、2曲歌っています。そう言えば、一度、とあるバーで「ビートルズ・ナイト」と称してソロ・ライブをやったこともあります。


高校時代にビートルズにどっぷりはまり、全213曲のほとんどを諳んじて歌えるのが唯一、自慢できることです(笑)。半世紀前に彼らは解散してしまったけれど、ぼくの心の中では永遠に不滅。同じ思いの人が世界中にごまんといます。


Yesterday-500-1.jpg本作はもろにビートルズ! 映画に流れるのは24曲だけとはいえ、十分すぎるほど金縛り状態になりました(笑)。それもイギリス映画界を支える名匠ダニー・ボイル監督と名脚本家リチャード・カーティスとの最強コンビによる超変化球の音楽映画。昨今、『ボヘミアン・ラプソディ』や『ロケットマン』といったイギリスのロックシーンを描いた同様の映画が話題になりましたが、この『YESTERDAY イエスタデイ』は何よりも作り手の〈ビートルズ愛〉がめちゃめちゃ凝縮しており、全く異なるベクトルを放っています。


イギリス東部サフォーク州の田舎町で、ストリート・ミュージシャンのジャック(ヒメーシュ・パテル)が町のあちこちで演奏する冒頭シーンが何とも切ない……。なぜなら、すごく通る美声の持ち主なのに、だれも聴いていないからです。ここで売れていないミュージシャンであることが強く印象づけられ、健気に彼を支えてマネージャー役を務める女友達エリー(リリー・ジェームズ)とのほんわかとした関係が浮かび上がってきます。彼女の何といじらしいこと!


Yesterday-500-3.jpgドラマの軸となる2人の顚末が焦点ですが、それ以上に、ビートルズがいつ、どんな形で絡んでくるのか、それが気になって仕方がなかった。今か今かと待ちかまえていたぼくをジラしにジラし、まったく想定外の手法でジャックにぶつけてきました。いやぁ、参った。ネタバレになるので詳しく書きませんが、絶対にあり得ない(科学的にあり得るかな?)トラブルが起こり、この世にビートルズのことを知っている人間がジャックだけになってしまった! そう、この映画はファンタジーなのです。


ビートルズが存在しなくてローリング・ストーンズは存在している。コカ・コーラがなく、ペプシはある。こんな具合にライバルはちゃんと現存しているのです。『ハリー・ポッター』がなくなっていたので、『ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)』はあるはず、きっと~(笑)。まぁ、何ともけったいな設定ですね。


Yesterday-500-4.jpg友人たちを前にして、ジャックが何気に『イエスタデイ』をギターで弾き語ると、みながビートルズの代表曲(厳密にはポール・マッカートニーの曲)とは知らず、「素敵やなぁ」と聴き入るさりげない場面、何ともよろしおます。これ、選曲がええですね。過去とは変わってしまったことを暗示しているような。


それと、自宅で両親を前にピアノで『レット・イット・ビー』を披露する段になり、来客があったり、雑談し合ったりとまともに聴いてくれず、半ば憤りを伴った困惑ぶりを見せるシーンもよかった。あくまでもジャックはごくありきたりな労働者階級の家庭に生まれ育ったことを強調していました。インド系というのもミソ。ビートルズの面々が一時期、インドに傾倒したから? まさか。


Yesterday-500-7.jpgジャックに扮したパテル、日本ではまったく無名です。何と全曲を地声で歌っていました! 人気アーティストのエド・シーラン(本人が出演)を前にしてピアノを弾いて歌った、これまたポールの名曲『ザ・ロング・アンド・ワイディング・ロード』の澄み切った声は、正直、ポールよりも聴きごたえがあったかも。こんなこと言うたら怒られるかな(笑)。『ロケットマン』のタロン・エガートンしかり、喉に自信のある俳優さんが結構、多いですね。


Yesterday-500-2.jpgすべてビートルズありき。主人公がこのスーパーグループの生み出した曲をいかにして我が物にしていくかがポイント。その過程がコミカル風にテンポよく描かれています。『トレインスポッティング』や『スラム$ミリオネア』などボイル監督の映画はどれも抜群にリズムがいいです。観ている側をノセるのがほんまに巧い。本作では、そろそろビートルズを~と欲求が高まってくる絶妙なるタイミングで曲を挿入していました。


映画の中で一番存在感のあったのがアメリカ人女優ケイト・マッキノン扮するデブラという女性。ジャックが「変身」してからのマネージャーです。キャリア・ウーマンと言えば、聞こえはいいけれど、薄っぺらなセレブ丸出しで、ミュージシャンを商品としてしか見ていない下劣な人物。アメコミに出てくる典型的な悪女のようで、汚い英語を喋ってはりましたわ。ここまで濃いキャラクターにしなくてもと思うのですが、これもメリハリなのでしょう。


Yesterday-500-5.jpg『イン・マイ・ライフ』、『バック・イン・ザ・USSR』、『ヒア・カムズ・ザ・サン』、『ヘルプ!』、『愛こそはすべて』……などなどお馴染みのナンバーがジャックによってカバーされます。いつ聴いても和みます。それにまったく古く感じない。ぼくはずっと口ずさんでいました。『ヘルプ!』はジャックの悲痛な心の叫びを吐露するように、主人公の心情を投影しています。ジョン・レノンがこの曲を歌ったときとまさに同じ心境。


ボイルもカーティスもともに62歳。年齢からしてビートルズの後期に、あるいは解散してからファンになったと思われます。「これは、ビートルズへのラブレターだ」とのキャッチ・コピー。ぼくのようなビートルズ愛好家には何ともご機嫌な映画に仕上げてくれたのだから、やっぱりそうでした。ビートルズの1人(誰だか言いませんが、そっくりさん!)を登場させたのはリスペクトの証しなのでしょうね。いっそのこと、まだ元気なポールとリンゴを出演させてほしかったなぁ。


Yesterday-500-6.jpg観終わって思ったこと。それは世界でたった1人だけビートルズを歌うことができるジャックがほんまに羨ましい~!! 主人公になりたかった~!! この映画を観た日、帰宅するや、ずっとビートルズ・ソングをギターで弾き、歌いまくっていました~♪♪


武部 好伸(エッセイスト)

公式サイト⇒ https://yesterdaymovie.jp/

(C)Universal Pictures

 
 
 

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