制作年・国 | 2019年 日本 |
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上映時間 | 1時間48分 |
原作 | 北方謙三(「抱影」講談社文庫刊) |
監督 | 和泉聖治 脚本:小澤和義 |
出演 | 加藤雅也、中村ゆり、松本利夫、カトウシンスケ、若旦那、熊切あさ美、余貴美子、火野正平、AK-69 他 |
公開日、上映劇場 | 2019年9月6日(金)~なんばパークスシネマ、イオンシネマ大日、T・ジョイ京都、MOVIXあまがさき、他全国ロードショー |
~“頼れる兄貴”の刺青純愛~
日本映画には時代を代表する頼もしいヒーローがいた。幼少期から近しかったのは日活・石原裕次郎や小林旭。東映・中村錦之助、大川橋蔵、時代下がって任侠映画時代には鶴田浩二、高倉健、大映には型破りな座頭市・勝新太郎がいたし、もの静かな眠狂四郎・市川雷蔵も忘れられない。
時代が移り、スクリーンからテレビへと舞台も変わってヒーローもアイドル風に大きく様変わりした。侠気にあふれ我慢を知る男など、現実にはもちろん、スクリーンやブラウン管からさえいなくなった。時に現れる時代劇にかつての面影を思い浮かべるぐらいだ。
「暴力団排除条例」以来、表向き反社会集団(やくざ)は影を潜め、やくざ映画さえ下火になった今、昔懐かしいヒーローに出会えた。北方謙三原作「抱影」の主人公・硲(はざま=加藤雅也)は、本職は抽象画家だが頼まれてもめったに描かず、日々の仕事は横浜で経営している2軒のバーを巡回するだけ、というけっこうな身分。やくざとは無縁だが、時にチンピラたちの相談には乗る、言わば町の守り神。こんな奇特で面倒見のいい兄さんが街にはいて、時に銀幕のヒーローにもなる。
硲には10年来、純愛を貫く女医・響子(中村ゆり)がいるのだが、彼女から「ガンで余命僅か。刺青を入れて」と頼まれる。画家でも刺青は素人、そこで彼は、なじみの刺青師(火野正平)の指導を仰ぐ。“めったに絵すら描かない男”が女のために、絵筆ならぬ刺青の針を入れるなんて、こんなヒーローは見たことない。黙々と墨を入れる男、じっと痛みに耐える女。痛みすら画面からにじみ出る、この場面はどうか。切った張ったの出入りシーン以上に緊迫感があふれる。屈折してはいるものの“侠気”にあふれた、今どき珍しいヒーロー像だろう。
横浜では当然、反社会集団のコワイおにいさんが幅をきかせている。硲を慕う信治(カトウシンスケ)が、未成年女性を救うために奔走。彼女が母親の借金のために身代わりで売られるところを救ったことから、コワモテ男たちにボコボコにされ硲の家に転がり込んでくる。信治は慈善団体“碧会”の一員として活動していたのだが、こうして堅気の硲もやむにやまれず、騒動にまきこまれていく。
硲は組事務所に乗り込み、コワモテたちに「金でカタをつけたい」と談判して強引に納得させる。コワモテたちも「あれが堅気に見えるか」とあ然。もはややくざ映画とはほど遠い、現代らしい「任侠映画」と言えようか。世の中には様々な不法や違法がまかり通っているのは日々見聞きしているが、せめて物語の中で「目いっぱい筋を通す男らしい男」を確かめていたいものだ。
(安永 五郎)
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