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『レディ・マエストロ』

 
       

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作品データ
原題 The Conductor
制作年・国 2018年 オランダ
上映時間 2時間17分
監督 監督・脚本:マリア・ペーテルス
出演 クリスタン・デ・ブラーン、ベンジャミン・ウェインライト、スコット・ターナー・スコフィールド
公開日、上映劇場 2019年10月4日(金)~ テアトル梅田、10月5日(土)~ 京都シネマ、11月1日(金)~シネ・リーブル神戸 他順次公開

 

今、この映画がつくられた意義を噛みしめたい。

ドラクエ並み(!?) 女性指揮者の闘いの半生を描いた大作!

 

女性の自立は欧米の方が進んでいると思っていたが、どこの世界でも“先陣を切る女性”たちの苦労は同じのようで、あらゆる艱難辛苦を乗り越えなければならない、と実感する。宇宙開発に関わるNASAの研究スタッフを描いた『ドリーム』(2016年)しかり、初の男女平等裁判に挑んだ女性弁護士の実話『ビリーブ』(2018年)しかり。さらに『ビリーブ』の主人公のドキュメンタリー『RBG 最強の85歳』まで登場した。初めて見る「女性指揮者」誕生物語(実話)『レディ・マエストロ』も見事な“女性讃歌”だが、その生きる姿勢には男性にも勝る頼もしさと力強さがある。


LM-500-4.jpg過去、様々な“音楽映画”があったが女性指揮者の成功譚は初めて。不勉強を恥じつつ「こんな人がいたのか」と改めて感心する。「女性が指揮者になる」など、夢見ることも出来なかった時代(1920年代)に、実際に夢を叶えた女性の実話である。どれほど障害があったのか、そしてそのひとつひとつをどのようにクリアしていったのか、さながらドラクエのように、障害の連続に息を呑む。「天才ピアニスト」のお話は定番とも言えるが、数々の困難を乗り越えていく様は他の音楽映画より奥深く、普遍的意義は大きいように思う。


LM-500-1.jpgまず、ヒロインの登場から惹きつけられる。コンサートホールの案内係ウィリー(クリスタン・デ・ブラーン)は、客席の通路の最前列に椅子をドカッと置いて座る暴挙に出る。それはオランダの名指揮者メンゲルベルクを間近で見たかったから、なのだが、ホールの経営者で大富豪の子息フランク(ベンジャミン・ウェインライト)に放り出され、クビになってしまう。


LM-500-2.jpg音楽好きの彼女に両親は猛反対。ウィリーは両親とともにオランダからの移民で、実は彼女は「貰い子」で、本名はアントニア・ブリコだと分かってがく然とする。心優しいロビン(スコット・ターナー・スコフィールド)の助けもあり、場末のキャバレーでピアノ弾きとして金を稼ぐなど、天才少女とは考えられない苦労三昧の日々。そんな中、意外な場所でフランクと再会したウィリーは、彼女の知性と情熱に惹かれたフランクに好意を持たれるようになる。ようやく入学できた音楽学院だったが、ある事情で辞めざるを得なくなり……。


LM-500-3.jpg“艱難辛苦”物語は複雑多岐に渉り、それ自体興味津々なのだが、ウィリーの意思強固を象徴する挿話は2つある。ひとつはアントニア(ウィリー)が初めてコンサートで指揮する場面。愛するフランクが挙式する幻想シーンとダブる。「フランクか音楽か」、究極の二者択一にあって彼女は断固、音楽を選ぶ。


LM-500-8.jpgもうひとつは、女性指揮者に賛否両論ある終盤、練習中に、ある楽団員が「ごう慢な女指揮者には従いたくない」と席を立つ。ウィリーはその時、やおら楽団員のバイオリンを手に取り、たたき割るそぶりを見せる。楽器は名品“ストラディバリウス”の超高級品だった。ウィリーは楽団員に「演奏者にとって楽器は命。指揮者には楽団員が命。楽器がなくては音が出ない」と強力に説得する。


このように、彼女は何度も迫り来る難儀を強烈な意志で乗り越えていく。その様子は「コケの一念岩をも通す」ということわざを地で行く生き様に他ならない。女性指揮者が悪評にさらされ、チケットの売れゆきに困った時に、凄い大物(?)が手助けに現れるあたり、ヒーローアクションも顔負けの展開だろう。


LM-500-7.jpg今では少しずつだが女性指揮者が芸術監督に就任している交響楽団もある。だが、今なお世界の指揮者トップ50に女性指揮者の名が登場することはない。アントニア・ブリコは容姿にも恵まれていたのは確かだが、きりりと意思を固めた表情で音楽に命を懸けた生き様は、観る者にやる気と勇気を奮い起させる。そんな彼女の“闘う人生”には、きっと「ボーッと生きてるヒマ」などなかったに違いない。

     
(安永 五郎)

公式サイト⇒ http://ladymaestro.com/

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