原題 | au bout des doigts |
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制作年・国 | 2018年 フランス¬=ベルギー |
上映時間 | 106分 |
監督 | ルドヴィク・バーナード |
出演 | ジュール・ベンシェトリ、ランベール・ウィルソン、クリスティン・スコット・トーマス、カリジャ・トゥーレ他 |
公開日、上映劇場 | 2019年9月27日(金)~テアトル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸他全国順次公開 |
~フランス期待のサラブレッド俳優が魅せる、駅のピアノが呼び寄せた運命的な出会い~
数年前初めてパリに行った時、モネの連作でも有名なサン・ラザール駅構内にピアノが置かれ、“A VOUS DE JOUER!”(ご自由に演奏を!)と書かれていたのに、「これがパリなのか!」とすごく感動した覚えがある。何度か駅を利用したが、誰かがピアノを弾き、通りすがりの人が足を止めて聞いている光景も目にした。観光客の私にはすごく新鮮に見えた光景だが、まさかあの駅のピアノからこんな感動的な音楽映画が生まれるなんて!本作のルドヴィク・バーナード監督も、実は駅でピアノを弾く青年の姿を見て、このオリジナルストーリーを構想したという。駅でしか思うようにピアノが弾けない境遇の青年マチューを主人公に、駅のピアノで運命的な出会いを果たすサクセスストーリーを編み上げた。マチューを演じるジュール・ベンシェトリは、『男と女』の名俳優ジャン=ルイ・トランティニャンを祖父に持つフランス映画界のサラブレッド。夢と現実の間で苦悩するマチューを繊細かつ力強く演じ、コンクール本番のクライマックスまで引きつける。クラッシックの名曲が散りばめられた劇中のピアノ演奏シーンにも注目したい。
パリ郊外の団地で母、兄弟と暮らすマチューは、小さい頃にピアノに興味を覚え、恩人にピアノを習い、ピアノが心から好きな青年だが、日頃は近所の悪ガキ友達とつるみ本当の姿を明かせない。ある日パリ北駅に置かれたピアノを弾いていたマチューは、偶然通りかかったパリ国立高等音楽院のディレクター、ピエール(ランベール・ウィルソン)から声を掛けられ、名刺を渡される。その後、友達と窃盗に入った家のピアノを思わず弾いているところを警察に捕まったマチューは、実刑を免れるため、ピエールの計らいで音楽院の公益奉仕をすることになるが、ピエールがつけた条件は、そこで女伯爵との異名を持つ厳しいピアノ教師、エリザベス(クリスティン・スコット・トーマス)のレッスンを受けることだった。
日本でも音大に行くのはお金もかかり、親がお金持ちでなければ才能があってもなかなか行けない場所だ。マチューも掃除の奉仕活動をしながらエリザベスの鬼レッスンを受けること自体に最初は猛反発。周りの学生から白い目で見られるが、やはり才能は人を引きつける。最初はマチューの非協力な態度に匙を投げそうになっていたエリザベスも、基礎からマチューを鍛えることで、彼の自己流奏法に、しっかりとした土台を築かせようと懸命に指導する。そして何よりマチューのモチベーションの源になったのは、音楽院の生徒、アンナ(カリジャ・トゥーレ)の存在だった。
ピエールがディレクター職の進退をかけて、音楽院から唯一のコンクール出場枠にマチューをエントリーし、本番に向けて課題曲を弾きこむ緊迫したピアノレッスンシーンと並行して描かれるのは、マチューとアンナとのラブストーリーだ。デートシーンでは、今年4月に火災に見舞われたノートルダム大聖堂のかつての姿も映り込んでいる。恋愛も、ピエールとの関係もうまくいけば音に力がみなぎり、関係が綻べば練習すら放棄してしまう。マチューにとって一番の敵は、障害を乗り越えることを諦めそうになる自分自身だ。
才能は、それを見出し、伸ばす人がいて初めて花開くもの。マチューもピエールに見出され、エリザベスとがっぷり四つに組んで準備してきたが、コンクールの本番に乗らなければ、全てが水の泡だ。最後まで目が離せない展開の中で感じるのは、自分の気持ちは周りに伝わるということ。やりたいという気持ちがあれば、周りは手を差し伸べてくれる。駅のピアノから見出された若きピアニストがその指で切り開く未来を、もっと見たいと思いながら、最後まで熱い声援を送らずにはいられなかった。
(江口由美)
公式サイト⇒:https://paris-piano.jp/
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