制作年・国 | 2019年 日本 |
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上映時間 | 2時間 <R-15> |
監督 | 蜷川実花 |
出演 | 小栗旬、宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみ、成田凌、千葉雄大、瀬戸康史、高良健吾、藤原竜也他 |
公開日、上映劇場 | 2019年9月13日(金)~丸の内ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、あべのアポロシネマ、MOVIX京都、TOHOシネマズ二条、T・ジョイ京都、神戸国際松竹、109シネマズHAT神戸、OSシネマ神戸ハーバーランドほか全国ロードショー |
女たちに振り回されたのか、
女たちを栄養として才能を咲かせたのか。
たぶん、どっちも!
「君は太宰を読んだか?」…青春の時代には、年上の文学青年から尋ねられたものだ。“日本文学の金字塔”などと呼ばれる太宰治の作品を好きか嫌いかと問われると、好きだった時期もあり、「もう結構!」と感じた時期もあり、最近は、全く遠ざかっている。けして骨太体質の作家ではないが、ふとした一行で、人の心をつかみ取る“何か”が、彼の作品には備わっているように思う。
蜷川実花監督作品は、個人的な好みをいえば、けばけばしいともいえる色調が少々苦手だと感じる部分もあったのだが、本作ではそういう色味が抑えられ、太宰を取り巻く人間ドラマとして面白い仕上がりになっている。3人の女たちとは、太宰の妻の津島美知子、愛人の太田静子、やはり愛人で太宰と共に玉川上水に入水自殺した山崎富栄で、宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみという配役に注目した。これを受けて立つ小栗旬は、あの時代の人というよりやはり現代的であるように思えるが、なかなかの好演ぶりである。
映画は、太宰の、女性との心中未遂(女性だけが亡くなり、自殺幇助罪に問われた事件だと思われる)で始まり、富栄との心中で太宰亡き後の2人の女たちの様子で終わる。この映画に描かれた太宰治という男は、なかなかに興味深い。現代でもモテる男の共通点は「マメなこと」であるが、彼もまた女性に対してマメである。呼ばれれば、ホイホイと出かけていく。それぞれの女性にまっすぐ付き合い、ごまかしたりしない。「みんな、俺のことが好きで、俺もみんなのことが好き」なのである。
こういう人が夫であれば、大多数の妻は我慢できないだろうが、美知子という妻もまた変わっている。ストレスや嫉妬の思いをたぶん胸にいっぱい溜め込みながらも、素知らぬ顔である。怖いなと思ったシーンが幾つか出てくる。愛人と会っている太宰の姿を見つけた子供に、美知子は言う。「お父様はお仕事ですから」。そして、太宰の遺体が発見された後、自宅に押しかけた記者たちの前で日常的に洗濯物を干そうとする美知子の姿。これも凄い。だが、夫の才能を人一倍信頼していたのだろうか。「(家庭も何もかも)壊しなさい!」と、生前の太宰にハッパをかけたのだ。この美知子を演じた宮沢りえの迫力と、どろりとした影に惹きつけられる。
それに比べ、太田静子は、ある意味、欲しいものを手に入れ、どこかサバサバしている。お嬢様体質と言うべきか。太宰の“最後の女”と呼ばれる山崎富栄は、作家としての太宰にさほど興味はなく、ぞっこん恋する対象としてしか見ていなかったのだろうか、と思える。三者三様の女性の描き方が濃厚である。
スキャンダルの多い反逆児的なスター作家・太宰に対する文壇の圧力、批判、やっかみも描写され、酒、薬物、肺結核、女性問題にとらわれつつも、よくもまあ作品を書き続けられたなあと感心したりもするのだ。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://ningenshikkaku-movie.com/
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