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『北の果ての小さな村で』

 
       

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作品データ
原題 Une annee polaire 
制作年・国 2017年 フランス
上映時間 1時間34分
監督 監督・撮影・脚本:サミュエル・コラルデ 脚本:カトリーヌ・バイエ
出演 アンダース・ヴィーデゴー、アサー・ボアセン、チニツキラーク村の人々
公開日、上映劇場 2019年8月30日(金)~シネ・リーブル梅田、8/31(土)~京都シネマ、10/11(金)~シネ・リーブル神戸 、他全国順次公開

 

「生きるのに必要なことはおじいちゃんが教えてくれる!」

文化的生活って誰のためのもの?教育って誰のために?

人間の幸せって何?

 

「グリーンランドを買いたい!」と言って一蹴されたアメリカのトランプ大統領に、ぜひ観て欲しい映画だ。日本の6倍もある広大な氷の島グリーンランドは、人口わずか56,000人のデンマーク領。未開拓の豊富な資源を狙って既にイギリスや中国が進出しており、米ソ冷戦時代からのアメリカ軍基地もある。過去の汚染物質が近年の温暖化の影響で溶解するのではと危惧されている。そこで、「まるごと買っちゃおう!」なんてトランプさんは考えたのかもしれない。


kitanohateno-500-1.jpg本作は、デンマークからグリーンランドの小さな村に派遣された若い教師を通して、グリーンランドで暮らすイヌイットの人々の現状と、変容する厳しい自然を相手に柔軟に生きるために何が必要かを教えてくれる。文明的な暮らしとは一体誰が決めたの?一元的な教育って、何の役に立つの?世界の国々では、どんな暮らしをするのが幸せなの?……文化的生活を享受する我々に、人間本来の幸せについて改めて考えさせてくれる、目にも心にも清涼感たっぷりの逸品である。


kitanohateno-500-4.jpg監督はフランスの小さな村で育ったマミュエル・コラルデ監督。現地で実際に暮らす人々の名前もそのままに本人に演じさせるドキュメンタリーのような物語を紡ぐのを得意とする監督だ。それを「ドキュフィクション」と呼ぶらしい。今回も、グリーンランド東部のチニツキラークという人口100人程度の村に滞在して、何をどう描くか模索していたところ、若い教師が赴任して来るという話を聞いて、彼の目を通して村人の生き方を描こうと思いついたらしい。


kitanohateno-500-2.jpg主人公のアンダース・ヴィーデゴーは、7代続く農園の跡取りだが、「まだ若いから別な世界も見てみたい」と父親の失望をよそにグリーンランドのチニツキラークという小さな小さな村へ赴任してくる。真っ白な氷山が浮かぶ真っ青な海と真っ青な空の中を小さなボートでやって来た。初めて見る光景に息を呑むアンダース。だが、村の子供たちの前に立っても相手にもされず、早くも学級崩壊状態。ある日無断で欠席しているアサーの家を訪ねると、彼の祖母に「必要なことはおじいさんが教えてくれる」と言われてしまう。


kitanohateno-500-3.jpgアンダースは、「現地の言葉を覚える必要はない。デンマーク語を教えなさい」と赴任前に言われていたが、村人との意思疎通が上手くできず孤立状態に。不便な暮らしと孤独のあまり、親切に面倒を看てくれるジュリアスにまで八つ当たりしてしまう。想像以上に厳しい寒さの中で生き抜くためにも、村人と交流を持とうとするが……。そして、今では数少なくなっている猟師のトビアスのアザラシ狩りの旅に同行するチャンスを得る。おじいさんを亡くしたばかりのアサーも一緒だ。犬ぞりで凍った海や氷河が削った雄大な山や谷を移動する旅は、犬の扱い方やテントの張り方や天候の読み方など、学ぶことは数多い。中でも、先祖から伝わる伝説やトビアスの経験談は興味津々。厳しい旅は危険も多いが教室では学べないことばかりだ。


kitanohateno-500-6.jpgグリーンランドはデンマーク政府から自治権を認められているが、財政的な依存度は高い。福祉国家として生活が保障されているせいか、昔ながらの狩猟生活を辞めてしまってアルコール依存症になったり、他に働く産業もなく若者の自殺も増えているという。アサーが親と離れて祖父母と暮らす理由は明らかにされていないが、そんな事情も垣間見れる。雄大で美しい自然を求めてちょっと訪れるだけの観光では分からない、そこに生きる人々の想いや習慣、伝統、問題など、人間本来の暮らしぶりについて優しく気付かせてくれる。


kitanohateno-500-5.jpgイヌイットの人々は、北極点を中心にした地図で見ると、アラスカやシベリヤ、北欧など実に広大な北極圏内に居住している。その生活は地域によって様々だが、極寒の地で生き抜くための知恵と技と精神力を子々孫々に引き継いでいる。地球規模の変動が起こりつつある今こそ、自然と共存する生き方を保護し伝授する必要があると思う。人間の尽きない欲望から、最後の秘境となったグリーンランドを守っていってほしいと、心から願わずにはおられない。


(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://www.zaziefilms.com/kitanomura/

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