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『命みじかし、恋せよ乙女』

 
       

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作品データ
原題 Cherry Blossoms and Demons 
制作年・国 2019年 ドイツ 
上映時間 1時間57分
監督 ドーリス・デリエ
出演 ゴロ・オイラー、入月絢、フェリックス・アイトナー、フロリアーネ・ダニエル、ビルギット・ミニヒマイアー、ゾフィー・ロガール、ハンネローレ・エルスナー、エルマー・ウェッパー、樹木希林
公開日、上映劇場 2019年8月16日(金)~TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマ、T・ジョイ京都、シネ・リーブル神戸ほか全国順次ロードショー

 

~人生のどん底を生きる男を救ったものとは?~

 

このサイトをご覧になっている映画好きの方なら、タイトルから即座に黒澤明監督『生きる』(1952年)を思い出すだろうが、映画に特に関心のない若い世代はどうだろうか?少々レトロな響きを持つ「命みじかし、恋せよ乙女」というのは、『生きる』の中で歌われる有名な「ゴンドラの唄」の一節なのだが、本作では、最後の方で、昨年亡くなった樹木希林さんがか細い声で歌う。その歌声は或るメッセージをまとって、観る者に迫ってくる。


inochimijikashi-500-1.jpg映画は、ドイツのミュンヘンで始まる。パンダの着ぐるみを着た男が、幼い子どもの誕生日パーティーに向かうのだが、彼は、子どもの母親(つまり元妻)から冷たく追い払われる。この男が主人公のカール(ゴロ・オイラー)で、彼はアルコール依存症のせいで、家庭も仕事も失ってしまったことがわかってくる。そんな彼の前に、カールの亡き父親と知り合いだったという日本人女性ユウ(入月絢)が現れる。少し風変わりで、少女のような天真爛漫さを持つユウに引っ張られ、過去と関係ある場所を訪れるうち、次第に自分の人生を見つめ直すカール。だが、突然、ユウは姿をくらましてしまう……。


inochimijikashi-500-3.jpgユウを探し、何らかの手がかりを見つけるため、カールが日本にやって来るというのは、かなり強引な展開だなあと思ったが、ドーリス・デリエ監督は大の親日家として知られ、これまで『MON-ZEN』(1999年)、『漁師と妻』(2005年)、『HANAMI』(2008年)、そして桃井かおり主演の『フクシマ・モナムール』(2016年)と、日本を題材にした4本もの作品を世に出しているひと。本作の後半では十分に日本へのこだわりを効かせている。


外国人が日本を舞台に撮った作品には、勉強不足や誤解、思い込みによって、日本人には違和感を与えることもあるが、本作では、物の怪(もののけ)、あるいは幽霊というものの力を借りることによって、私たちが見過ごしている“日本の神秘”を掘り起こしているのではないだろうか。そして、監督は母国ドイツの過去と現在にも触れる。カールの祖父がナチスの側の人であったこと、カールの甥がナチスのハーケンクロイツを入れ墨にしていること。これらは、破綻しているカールの家族関係の底面に居座る濁りのようである。


inochimijikashi-500-2.jpg私たちがじっと見守ってきたカールの心の旅は、樹木希林演じる旅館の女将と出会うことで、到着すべき地点へと降り立つ。最後には、或る悲しい真実が待っているのだが、不思議なことに、なんとも言えない清々しさに近いものに包まれた。


ちなみに、その旅館は「茅ヶ崎館」と呼ばれ、小津安二郎監督がこよなく愛した場所。名作『秋刀魚の味』もここで撮影され、出演者の一人であった杉村春子の付き人として、樹木希林も訪れたという由緒ある旅館なのだ。


(宮田 彩未)

公式サイト⇒ https://gaga.ne.jp/ino-koi/

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