制作年・国 | 2019年 日本 |
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上映時間 | 2時間07分 |
監督 | 脚本と監督:三谷幸喜 |
出演 | 中井貴一 ディーン・フジオカ 石田ゆり子 草刈正雄 佐藤浩市 小池栄子 斉藤由貴 木村佳乃 吉田羊 山口崇 田中圭 梶原善 寺島進 藤本隆宏 迫田孝也 ROLLY 後藤淳平(ジャルジャル) 宮澤エマ 濱田龍臣 有働由美子 |
公開日、上映劇場 | 2019年9月13日(金)~全国東宝系にてロードショー |
★記憶喪失首相の一発大逆転は?
政治や政治家を扱った映画は数多い。中には政治に真っ向みじんと切り込んだものもあるが、政治家を皮肉ったコミカル風味も少なくない。三谷幸喜監督が〝構想13年〟をかけた監督8作目「記憶にございません!」はたっぷり効いた皮肉が全編に散りばめられ、見事なプロの技を感じさせた。
主役がなんと〝記憶喪失,になった総理大臣〟(中井貴一)というからそれだけでも充分、人を食っている。実際、このセリフ「記憶にございません」で難局を乗り切った政治家はよく目にするし、時の〝一強〟首相も似たような言葉を使った。つまり「冗談や洒落ではすまない」のだ。
この首相、第127代内閣総理大臣なのだが、支持率は史上最低の2・3パーセント、国民からは「史上最悪のダメ総理」と呼ばれている。で、誰かが投げた石が当たって昏倒、病院に運ばれ、目が覚めたら幸か不幸か、一切の記憶がない。さあエラいこっちゃ、である。
当然、この事態は政府のトップシークレット。真実を知るのは3人の秘書官(ディーン・フジオカ、小池栄子)ら3人の秘書官のみ。この首相がふと抜け出した町で、テレビのニュースを見て自分の姿にようやく気づく。なんと…。
この手の映画では予防線として「物語はフィクションであり、似たようなことがあったとしてもそれは偶然」というお断りが入る。オーバーフィクションのこの映画でも偶然やジョークが頻繁に飛び出すのだが、現実先取りとも言うべきドンピシャ場面があったのにはいささか驚いた。
米大統領(女性=木村佳乃)が来日し、記憶喪失の首相と会談する。大統領は農産物の輸出拡大を意図して日本に「関税の引き下げ」を強引に迫る。会談直前に、国内の農家からの陳情を受けサクランボをひとつまみした首相は、日米会談の最中、その味を思い出し周囲の反対を押し切って「関税引き下げ」をきっぱり拒絶する。
現実に先ごろ来日した米大統領から〝関税引き下げを要求され〟「日本の首相は8月にはいい答えをしてくれるだろう」と米大統領が勝手な予言を残していたことへの痛烈な皮肉。「〝偶然〟にして?真実をものの見事に言い当てた」場面ではないか。優れたフィクションは優れた予感映画というテーゼが当てはまる。三谷監督の現実分析、作劇は半端じゃない。
記憶喪失首相のご乱業は徐々に明らかになるのだが、そのお粗末さには恐れいる。野合をもくろんで近寄ってきた野党党首(吉田羊)と良からぬ関係を持ち、首相夫人(石田ゆり子)とは当然不仲。仕事では、大ベテランの〝ワザ師〟官房長官(草刈正雄)のいいように操られる。これでは、息子も「将来の夢は総理大臣」などとは到底言えない。つまり、妻子とも疎遠な〝最低最悪の総理大臣〟なのは間違いない。
そんなひどいオヤジが、事故による記憶喪失を機に、まともな首相になる、というありそうにない夢物語。それはまた、取りも直さず、現代の政治、政治家への痛烈な批判にほかならない。三谷監督は「現代の政治を風刺するコメディにする気はなかった」という。時事ネタを取り入れると「今だけのもの」になってしまうから、なのだが、作家(監督)の思惑すら超えた日米会談の場面は、予感映画ならでは〝必殺シーン〟だった。
首相復活のポイントは〝クセ者〟の権力者・官房長官追い落とし作戦。これにはフリーのジャーナリストで政治ゴロでもある男(佐藤浩市)に協力を依頼する。最後の見どころは、とっとと夫を見放し、冷め切ったと思われた首相夫人の予想外の対応。自身の不倫を大告白し、世の批判を受けて、首相とともに国会議事堂の前で謝罪&説明会見する、というこれまたあっと驚く〝一発大逆転〟芝居だ。
三谷監督が93年の米映画「デーヴ」(アイバン・ライトマン監督)を見て思いついたというこの映画、監督の思惑通り、政治という生々しい題材を扱いながらも「中身はコメディで、痛快ファンタジー」が誕生したと言える。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ https://kiokunashi-movie.jp/
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