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『世界の涯ての鼓動』

 
       

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作品データ
原題 Submergence
制作年・国 2017年 ドイツ・フランス・スペイン・アメリカ合作
上映時間 1時間52分
監督 ヴィム・ヴェンダース(『ベルリン・天使の詩』『アメリカの友人』『パリ・テキサス』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』)
出演 ジェームズ・マカヴォイ、アリシア・ヴィキャンデル
公開日、上映劇場 2019年8月2日(金)~大阪ステーションシネマ、TOHOシネマズ二条、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ西宮OS 他にて 全国ロードショー

 

死に直面してもなお愛おしさがつのる恋、

海でつながる地球スケールの「い・の・ち」を感じさせるラブストーリー

 

世界各地を舞台に詩情豊かな映像で人間を濃密に描いてきたヴィム・ヴェンダース。彼の久しぶりの新作は、ノルマンディーの海を望む瀟洒なホテルで出会った男女が、それぞれの仕事先で絶体絶命の危機に陥ってもなお強まる愛の力が「命」を救うラブストーリー。男は内戦の続くソマリアへ、女は生命の起源を探りに深海へ。生命の起源というピュアな「命」と、人間の醜悪さがもたらす戦争という「命」の終焉を、地球規模の美しい映像で迫る一大抒情詩。


sekainohate-500-4.jpgジェームズを演じたジェームズ・マカヴォイは、近年『X-MEN』シリーズや『スプリット』『ミスター・ガラス』とかなり奇異なキャラを演じることが多いが、本作では『つぐない』や『ジェイン・オースティン 秘められた恋』のような深い情愛を秘めた貴公子役に近い。スパイとしてソマリアへ潜入し死に直面するが、「生きて彼女に会いたい!」という強い想いが彼の鼓動を突き動かす。大仕事の前に休暇で訪れたノルマンディーのホテルで出会って5日間を共にし、一生分の愛を育んだ運命の女性・ダニー。


sekainohate-500-2.jpgその運命の女性・ダニーを演じたアリシア・ヴィキャンデルは、『リリーのすべて』でアカデミー賞助演女優賞を受賞し一躍世界にその名を轟かせたが、『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』『光をくれた人』『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』と、雰囲気で想いを表現できるエレガントな女優である。本作では、生命科学の研究者で深海探査の大仕事の前に過ごしたホテルでジェームズと出会うダニーを演じている。自分の研究テーマを語りながらも、ジェームズが余人をもって代えられない大切な男性であることに気付いていく。


sekainohate-500-1.jpg二人が惹かれ合う情景が実に美しい。ノルマンディーの海岸を散策したり、ホテルのレストランで食事したり。ダニーが深海探査を行う目的を語るシーンがいい。彼女の生命起源探求への信念が感じられ、純粋な美しさが光る。これまでのヴェンダース作品の中で、このような女性像は登場してこなかったような気がする。


sekainohate-500-3.jpgダニーの純粋な信念とは対照的だが、ジェームズが遭遇するイスラム過激派兵士たちもまた信仰を基にした信念を持っている人物として描かれている。暴力的な反面、ジハードを信じる故の葛藤を抱えて生きているという兵士像は興味深い。ソマリアのシーンはジブチで撮影されたらしいが、ノルマンディーとは違った熱量を感じさせる美しい海が広がる。世界中の海は繋がっている。ダニーが深海探査に臨む北大西洋のフェロー諸島近海の冷たい海も、地球の生命体を育む源なのだ。世界の涯てに在っても、お互いを思う気持ちの強さに命は輝き出す。その瞬間を捉えられる稀有な作品。


(河田 真喜子)

 

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