映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『存在のない子供たち』

 
       

sonzainonai-550.jpg

       
作品データ
原題 CAPHARNAUM
制作年・国 2018年 レバノン=フランス 
上映時間 125分
監督 ・脚本・出演:ナディーン・ラバキー
出演 ゼイン・アル・ラフィーア、ヨルダノス・シフェラウ、ボルワティフ・トレジャー・バンコレ、カウサル・アル=ハッダード、ファーディー・カーメル・ユーセフ、シドラ・イザーム他
公開日、上映劇場 2019年7月20日(土)~シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、8月2日(金)〜シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸他全国順次公開
受賞歴 第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門審査員賞/エキュメニカル審査員賞受賞

 

~なぜ少年は両親を訴えたのか。

圧倒的なリアリティーで描く、少年の「生きるための」旅〜

 昨年のカンヌ国際映画祭で是枝裕和監督の『万引き家族』が、最高賞のパルムドールを受賞したことは記憶に新しいが、ケイト・ブランシェット審査委員長が「社会の中の見えない存在(Invisible People)に光を当てることがテーマだった」とコメントしたことも強く心に残っている。まさにそのテーマを凝縮させたのが、同映画祭でコンペティション部門審査員賞とエキュメニカル審査員賞をW受賞したレバノンのナディーン・ラバキー監督最新作、『存在のない子供たち』だ。社会の底辺で、住む場所も転々とし不法移民として働く人や、難民、戸籍のない人たちをラバキー監督が徹底的にリサーチ。弁護士役のラバキー監督以外は全員、実際に様々な困難を抱えている一般の人たちをキャスティングし、不条理な世の中でなんとか生き抜こうとする少年の苦難の旅と、存在すら認められない子供を次々と産む両親への怒りを、圧倒的なリアリティーで描いている。どんな苦境にも、孤独にもじっと耐え、自分の手で運命を切り開こうとする少年ゼインを演じるゼイン・アル・ラフィーアの、常に寂しさをまとった瞳が脳裏に焼きつくのだ。

 

sonzainonai-500-2.jpg

  中東の貧民窟、ボロボロのアパートに大家族と雑魚寝状態で住んでいるゼインは、親が出生届を出していないがために、誕生日が分からず、身分証明書もない。学校に行きたくても行けず、アパートの大家が営む雑貨店の配達手伝いや、自家製ジュースを売っていたが、大家が妹、サハルに手を出そうとしていることを察知し、なんとか妹を守ろうとしていた。11歳のサハルに生理が来た直後、両親は大家の申し出を受け入れ、サハルを嫁に出してしまう。一番大事な妹を守れなかったゼインは家を飛び出し、ある遊園地に辿り着いたが、働く場所もなく、生活に窮しているところを、従業員のラヒルに助けられる。0歳児の息子ヨナスと二人暮らしのシングルマザー、ラヒルはエチオピア出身の不法労働者。偽造した滞在許可証の期限が切れ、新たに作るために、高額な料金を業者に吹っかけられ、ひたすら働く苦しい生活の中、ヨナスだけが生きるよすがだった。ゼインは、留守中ヨナスの世話をする条件で、ラヒル母子と一緒に暮らし始め、束の間の家族のような時間を過ごしていたが、ある日、働きに出たラヒルが家に戻らなくなってしまう…。

 

sonzainonai-500-1.jpg

「両親を訴えたい、僕を産んだ罪で」という法廷での衝撃的な言葉で始まる物語は、12歳ぐらいのゼインが、腹黒い大人たちの企みを察知し、それをうまくかわしながら、持たざるものの生きる知恵を最大限に駆使して、自ら働き、生き延びようとする姿が強く印象に残る。赤子のヨナスと二人きりになってから、お乳がわりに氷に砂糖や粉ミルクをかけて舐めさせたり、家にあるタライを使って自家製ベビーカーを作り、ヨナスを連れて食料調達に奔走したり、本当の家族ではないヨナスに対する愛情深さもみせるのだ。また、ヨナスが市場で会うシリア難民の少女から、スウェーデンにシリア人が安心して過ごせる場所があると聞かされ、オリジナルドリンクを売って新天地に脱出する資金を蓄えていく。どんな苦境でも夢を捨てなかったゼイン、そんな彼をどん底に叩き落とすのは、またしても血の繋がった家族だった。

 

sonzainonai-500-6.jpg

 法廷では両親も自分たちの苦境ぶりを必死に語る。特に鬼母のように感じていた母親の言葉は、そうせざるを得なかった背景に、弱者を切り捨て、食い物にする社会があることを滲ませる。家族の問題ではあるが、社会の問題が根底にあるのだ。ナディーン・ラバキー監督は、イスラーム映画祭2で上映されたコメディータッチの『私たちはどこに行くの?』とは打って変わり、貧困、児童労働、児童結婚、育児放棄というテーマや、移民、難民、不法労働者、そして法的にも社会的にも不可視な存在を真摯に描き出した。彼らの叫びを見事に捉えた本作は、今、まさに見るべき一本だ。見えざる者たちの助け合う力や、音楽や踊りなどのささやかな喜び、そして家族ではない他人だからこそ見せる暖かさなど、辛い中にも光は見える。「最低の人生」と訴えたゼインに、真の笑顔をみせる日がくることを祈りたい。

(江口由美)

sonzainonai-500-4.jpg

sonzainonai-500-5.jpg

公式サイト⇒:http://sonzai-movie.jp/

月別 アーカイブ