原題 | THE GUARDIANS |
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制作年・国 | 2017年 フランス=スイス |
上映時間 | 2時間15分 |
原作 | エルネスト・ペロション |
監督 | 監督:グザヴィエ・ボーヴォア (『神々と男たち』『チャップリンからの贈り物』) 撮影:カロリーヌ・シャンプティエ 音楽:ミシェル・ルグラン |
出演 | ナタリー・バイ、ローラ・スメット、イリス・ブリー、シリル・デクール、ジルベール・ボノー他 |
公開日、上映劇場 | 2019年7月19日(金)~テアトル梅田、7月20日(土)〜京都シネマ、8月16日(金)〜シネ・リーブル神戸 他全国順次公開 |
~戦時下、家族を守る女たちの闘いと欲望〜
2018年は第一次世界大戦終結100周年であり、今年日本で公開されたフランス映画でもその時代を背景にした庶民の物語が続けて公開されている。1本はアルペール・デュポンテル監督・主演で帰還兵たちによる大胆な詐欺事件をアートの香りいっぱいに描いた『天国でまた会おう』。そしてもう1本が『神々と男たち』『チャップリンからの贈りもの』のグザヴィエ・ボーヴォワ監督が息子たちを戦地に送った未亡人の母、オルタンスが農場を守るために奮闘する姿を、家族の女たちとの衝突を交えながら描いた『田園の守り人たち』だ。
フランス映画祭2018で団長を務めた名女優ナタリー・バイと、その娘のローラ・スメットが母娘役で映画初共演していることも話題の本作。実は昨年、同映画祭ゲストとして揃って来日するはずが、ローラは突然来日できなくなり、ナタリーが一人でトークショーに出演し、大役を果たしていた。本作の自由奔放な娘ソランジュと、自分の役割を果たし、男たちのいない農場を守ろうと奮闘する母、オルタンスの姿が妙に重なり、映画の中の二人が時代を超えた普遍的な母娘の姿に映る。そしてもう一人、母娘の前に現れる孤児院出身の使用人、フランシーヌが、大きな存在感を放っていく。3人の女性が過ごした戦中戦後を通して、時代に求められた使命と、今と変わらぬ女たちの欲求を力強く描いた秀作だ。
舞台はフランスの田舎町。広大な農場で働くのは女たちばかり。オルタンスの二人の息子も、娘ソランジュの夫も戦地に就き、オルタンスはとにかく残された女たちでなんとか農場と家を守ろうと奮闘する。収穫期に雇った使用人のフランシーヌは、よく働き、オルタンスも信頼していたが、戦地から休暇で戻ってきた次男、ジョルジュと惹かれ合うフランシーヌの姿に、ソランジュの義娘マルグリットは嫉妬し、不穏な空気が流れ始める。
広大な畑を、牛を使って耕し、種を蒔き、収穫する。農場の四季は戦時中でも変わらず穏やかで豊かに見える。だが、女たちが守る農場は、次第にアメリカ兵が訪れることで緊張感が走るようになる。あっけらかんと、物資を調達するためにアメリカ兵と親しくなるソランジュと、その姿を目にし、村中に噂が広まることを恐れるオルタンス。家を守るために、家族ではないフランシーヌに思わぬ仕打ちをするオルタンスは、戦争で勝つためなら手段を厭わぬ戦士のようだ。
一方「私にも性欲がある」と、アメリカ兵との交流が自らの意思であることを言い放つソランジュは、家よりも自分の気持ちを大事にする。相容れない価値観の二人が戦後を迎え、戦地から男たちが帰ってきても、元どおりには戻らない。グザヴィエ・ボーヴォア監督は、それが戦争なのだといわんばかりに、冷静にオルタンス家をみつめている。戦時下を切り抜け、家を守ることに心血を注ぐオルタンスを演じるナタリー・バイの苦悩の表情が、胸に焼きつくのだ。
そして、映画音楽の神様、故ミシェル・ルグランの遺作となった本作で、ミシェルが登場のたびにオリジナルの曲を書いたキャラクターがフランシーヌだ。心に響く音楽に乗り、彼女のひたむきさと、愛を知り、一人で子どもを産む決意をする強さが、ひときわ鮮やかにスクリーンに刻み込まれる。戦時下でも歌を忘れず、置かれた環境で懸命に前を向いて生きる真っ直ぐなフランシーヌを演技初体験の新人、イリス・ブリーが表情豊かに演じ、女たちの戦争物語に大きな足跡を残した。武器を持って闘う戦場だけが戦場ではない。美しい風情の中で描かれるサバイバルドラマに、残された家族たちが、辱められることなく、無事に生き、農場を守ることが、どれだけ大きな闘いであるかを改めて思い知らされた。
(江口 由美)
公式サイト⇒:http://moribito-movie.com/
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