原題 | FORGET ABOUT NICK |
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制作年・国 | 2017年 ドイツ |
上映時間 | 1時間50分 |
監督 | マルガレーテ・フォン・トロッタ(『ハンナ・アーレント』『生きうつしのプリマ』) |
出演 | イングリッド・ボルゾ・ベルダル(『ヘラクレス』)、カッチャ・リーマン(『帰ってきたヒトラー』『生きうつしのプリマ』)、ハルク・ビルギナー(『雪の轍』2014年パルムドール受賞) |
公開日、上映劇場 | 2019年7月12日(金)~シネ・リーブル梅田、MOVIX京都、8月2日(金)~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開 |
ニューヨークを舞台にしたドイツ社会派監督が贈るコメディ♪
「女の生きる道」は一つではない。転機の時こそチャンスはある!
10年前に略奪婚した女が今度は若い女に夫を略奪される。その10年前の前妻が自宅にやってきて、高級アパートメントの半分の所有権を主張して居座ってしまう。「それみたことか!」とかつて夫を奪った女への恨み辛み、プラス財産をめぐる仁義なき闘いが始まる。だが、そこはドイツ映画。しかも監督は『ハンナ・アーレント』や『ローザ・ルクセンブルク』『生きうつしのプリマ』など歴史上の人物を重厚なタッチで掘り下げる作風のマルガレーテ・フォン・トロッタ監督。そんな単純な物語ではない。
近年絶好調の「ハズレなし」のドイツ映画らしく、天敵同士の中年女の誇りを賭けた闘いは、ユーモアと毒気にあふれていて、実に爽快。トロッタ監督は、たまには架空の女性を主人公にしたコメディを作りたいと思ったらしく、ニューヨーカーのパム・カッツに脚本を依頼。男に捨てられた女の生き様を通して、自由になったからこそ得られた自立心の貴さを感じさせてくれる。そして、それぞれに似合う生き方とは?本当の女の幸せとは?誰にでも当てはまる「生き方」について問いかけてくる。きっと起死回生のヒューマンドラマに勇気付けられるにちがいない。
ニューヨークはマンハッタンにある高級アパートメントのペントハウスに住むモデルのジェイド(イングリッド・ボルゾ・ベルダル)は、モデルからデザイナーとして華麗なる転身をはかろうとしていた。ところが、10年前に妻子あるトップデザイナーのニック(ハルク・ビルギナー)と略奪婚していたジェイドは、今度は若いモデルに夫を略奪され、離婚を言い渡されていた。夫の資金援助なしではデザイナーデビューも難しく、その資金繰りのために高級アパートの売却せざるを得なくなっていた。そこへ、10年前略奪した前妻のマリア(カッチャ・リーマン)が「半分は私のものよ!」と言ってドイツからアパートメントに転がり込んでくる。
かつて夫を奪った女との敵同士の奇妙な生活。趣味も考え方も生活様式もまるで正反対の二人。自然豊かな食生活を楽しみたいマリアは、ダイエット食品やビタミン飲料しか入っていない大きな冷蔵庫からすべてを捨て去り、多彩なオーガニック食品でいっぱいにする。さらに、リビングの壁に飾られた趣味の悪い抽象絵画も外させるが、その都度ジェイドが元に戻すという、二人の攻防は永遠に続くかに思えた。こうして、温もりのない無機質でガランとした部屋が、突然の来訪者によって生活感が漂ってくる。そこへ、マリアの娘が子供を連れてやってくる。早く売却したいのに、半分の権利を持っているマリアが承知しない。焦るジェイドは果たしてデザイナーとして再出発できるのか?訳あり物件の行方はどうなるのか?
それにしても、ニックは10年おきに妻を若いのに変えているが、自分も年齢を重ね、何が幸せなのか少しずつ感じてくる。久しぶりにマリアの手料理に舌鼓を打ったり、孫に会えなくてがっかりしたり、勝手な男だが人並みの情は持っているようだ。二人の子供を育てるために就きたい職業を諦めたマリア、子供を欲しかったが恵まれなかったジェイド、二人とも何かを諦めて生きてきたのだろう。年齢を重ね、体力や美貌が失われても、身に着けたものは他にも沢山あるはずだ。
「女の生きる道」は一つではない。波乱万丈の転機の時こそ、そのチャンスはある。自らを縛り付けていた枷(かせ)を解き放ち、自ら考えて行動する生き方こそ、本来マルガレーテ・フォン・トロッタ監督が描きたい人生観なのではないのだろうか。ノルウェー出身のアクション映画でも大活躍しているイングリッド・ボルゾ・ベルダルと、ソフトな外見ながら繊細で強い意志を感じさせるカッチャ・リーマンの、理路整然とした主張合戦のなんと爽快なこと!日頃言いたくても口をつぐんでしまう者としては、羨ましい限りだった。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://gaga.ne.jp/NYwakeari
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