原題 | ROCKETMAN |
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制作年・国 | 2019年 アメリカ |
上映時間 | 2時間1分 |
監督 | 監督:デクスター・フレッチャー『ボヘミアン・ラプソディ』 脚本:リー・ホール『リトル・ダンサー』 製作:マシュー・ヴォーン『キングスマン』シリーズ、エルトン・ジョン |
出演 | タロン・エガ-トン(『SING』『キングスマン』シリーズ、ジェイミー・ベル『リトル・ダンサー』、ブライス・ダラス・ハワード『ジュラシック・ワールド』、リチャード・マッデン(『シンデレラ』「ゲーム・オブ・スローンズ」) |
公開日、上映劇場 | 2019年8月23日(金)~ 全国ロードショー |
ミュージカルで綴るエルトン・ジョンの〈クレイジー〉な軌跡
けばけばしいコスチュームに身を包み、「くいだおれ太郎」も真っ青になるけったいな眼鏡をつけ、宙を飛ぶようにしてピアノの鍵盤を連打しながら絶唱するエルトン・ジョン。ぼくが大学に進学して間なしの1974年の初夏、洋楽好きの友人がどこかから入手してきたプロモーション・ビデオでこのスーパースターを初めて映像で目にしました。満員の観客を前にし、ステージで弾ける姿はミュージシャンというより、ピエロそのもの。大阪人のぼくからすれば、イチビリ(お調子者)以外のなにモノでもなかったです(笑)。
当時、レッド・ツェッペリンに象徴されるギンギンのハード・ロックが全盛期。ポップ・ミュージック的なエルトン・ジョンの音楽はショーマンシップにあふれすぎており、どうもチャラっぽく思え、のめり込めなかったです。でも、メロディーは美しいと思いましたよ。一番好きな曲は『グッバイ・イエロー・ブリック・ロード』。これを聴いたとき、レノン=マッカートニーに匹敵する作曲家だと認識しました。文句のつけようのない名曲です。
それともう1曲、定番曲ともいえる『ユア・ソング(僕の歌は君の歌)』です。1970年にリリースされ、全世界で大ヒットしたのに、どういうわけか日本ではあまり受けず、22年後、織田裕二主演のラブストーリー『僕の歌は君の歌』(1992年)の主題歌で使われ、一気にブレイク。当の本人がびっくりポンだったでしょうね。
さて、本作『ロケットマン』です。ロンドン郊外の住宅地で生まれ育った学童期から世界的なミュージシャンにのし上がり、やがて沈静化していく50代半ばに至るエルトン・ジョンの足跡が描かれています。時代でいえば、1950年代から1996年まで。つまり自伝的な映画です。昨年、引退したとはいえ、まだ健在なのに、自分の人生が赤裸々に暴かれるなんて……。ぼくなら絶対にイヤです!
英国人ミュージシャンの伝記映画といえば、やはり大ヒットした『ボヘミアン・ラプソディー』(2018年)と比較したくなりますよね。それに、「二匹目のドジョウ」を狙っていると思いますよね。おそらく、そうでしょう(笑)。でも、映画の作りが異なっています。ヒット曲を散りばめているのは同じですが、ミュージカル仕立てになっているのです。ごく自然に歌と踊りの世界へと移行していくところが妙で、どことなくファンタジーみたい。そこが本作の売りかもしれません。
例えば――。音楽的な才能を見せ始めた10歳のレジー少年(本名はレジナルド・ケネス・ドワイト)が街中のパブでノリのいい『土曜の夜は僕の生きがい』をピアノで弾き語りを始めるや、いきなり躍動的に動き回り、屋外へ飛び出して遊園地にまで移動する。そこでさらに周囲の人を巻き込んで歌って踊りまくる。気が付くと、ティーンエイジャーに変身しているといった具合。
フレディ・マーキュリー役のラミ・マレックは口パクでした。一方、エルトン・ジョンに扮した英国の俊英タロン・エガートンは全身全霊、本人になり切り、すべて地声で22曲を熱唱しています。それがエルトンも驚いたくらいの美声なんです。俳優業を失職しても、十分、食べていけると思います!(責任持ちませんが……)。『キングスマン』シリーズで脚光を浴びたエガートン、ノリノリです。
冒頭から意表を突かれました。チンドン屋みたいな羽付きの赤い服装を着て登場したので、てっきりコンサートの出番直前と思いきや、彼が足を向けたのは何とリハビリ施設の一室。1996年のこと。このころアルコール、ドラッグ、セックス、買い物の依存症、そして過食症で心身ともにボロボロになっていました。同じ症状で苦しむ「仲間」たちに狂気爛漫、過去を振り返っていく、そんな回顧形式になっています。
この人、ずっと愛情に飢えていました。英国空軍パイロットの父親から冷遇され、母親(ブライス・ダラス・ハワード)も浮気性とあって、かまってくれず、おばあちゃん(ジュマ・ジョーンズ)だけが理解者。こうした家庭環境が彼の心理に大きく影響し、のちに酒とドラッグが加味され、常軌を逸する〈クレイジー〉な振る舞いを重ねていきます。鬱屈する気持ちをエガートンが見事に表現していました。
そんなエルトンを支えたのが作詞家のバーニー・トーピン。生涯の音楽的パートナーです。エルトンはメロディー作りは天才的なのに、作詞に関しては鈍才(笑)。ほとんどの曲の詩をバーニーが手がけていました。モーツァルトさながら、それらの詩に即興で曲をつけていく。『ユア・ソング』はまさにそのようにしてあっという間に出来上がったのを映画を観て初めて知りました。
バーニー役のジェイミー・ベルが素晴らしい。あの『リトル・ダンサー』(2000年)でバレエに目覚めた繊細な少年を演じた彼がかくも滋味深い演技をするとは……。アネット・ベニングと共演した『リヴァプール 最後の恋』(2017年)でも好演していました。どこを取ってみても、やや翳りのあるイギリス人男性そのもの。たまりませんね。
栄光があれば、挫折がつきもの。どんどん堕ちていくところもなかなか見応えがありました。そこに関わるマネジャーで愛人でもあるジョン・リード(リチャード・マッデン)のいやらしさ。それが何とも際立っていました。実際にそんな人物だったのかな??
そうそう、エルトン・ジョンの芸名はバンド仲間のエルトン・ディーンの「エルトン」とロング・ジョン・ボルドリーの「ジョン」から取られたというのが定説になっています。しかし映画の中では、「ジョン」の名は、レコード会社の社長室に飾られていたビートルズの写真にたまたま目が留まり、ジョン・レノンからつけられたことになっていました。どっちが正しいねん! ほんま、気になるな……。
内省的な色合いが強いけれど、実にテンポのいい音楽映画でした。ファンには堪えられないでしょうね。はて、「二匹目のドジョウ」になれるか、そこのところが気になって仕方がありません。蛇足ですが、某超大国の大統領から「ロケットマン」と呼ばれたアジアの某国首脳はこのタイトルをどう思っているのでしょうかね。ウフフ。
武部 好伸(エッセイスト)
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