映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『引っ越し大名!』

 
       

hikoshidai-550.jpg

       
作品データ
制作年・国 2019年 日本 
上映時間 2時間
原作 原作・脚本:土橋章宏「引っ越し大名三千里」(ハルキ文庫刊)
監督 監督:犬童一心 音楽:上野耕路
出演 星野源、高橋一生、高畑充希、小澤征悦、濱田岳、西村まさ彦、松重豊、及川光博
公開日、上映劇場 2019年8月30日(金)~全国ロードショー

 

~引きこもり侍の一発大逆転劇!~

 

参勤交代よりも大きな仕事、藩の引っ越しという“お家の一大事”に立ち上がったのは書庫番の引きこもり男、通称かたつむりこと片桐春之介(星野源)だ。こんな意表をつくキャスティングで驚かせる、本格ならぬ変格時代劇。笑わせながら、現代に通じるアイロニーも随所に感じさせる。


hikoshidai-500-7.jpg原作は土橋章宏の傑作時代小説。幕府の気まぐれで費用と労力がかかる無理難題のお国替え。実際に7度も命じられた実在の大名・松平直矩(なおのり)のエピソードをもとに、引きこもり侍ら姫路藩の藩士たちが知恵と工夫で乗り越える姿を描く、笑いと涙の奮闘編だ。


遠い江戸時代のお話だが、何のことはない、現代のサラリーマン社会と同じ問題がそこに流れていることに驚く。虚構の小説とはいえ、百年以上経っても社会は変わらない、不変のテーゼというべき“不条理”の証明か。


hikoshidai-500-1.jpg近年、時に本格時代劇が人気を集める。昨年の「散り椿」は岡田准一が、先ごろの「居眠り磐音」ではただいま絶好調の松坂桃李が、鮮やかな立ち回りを披露して「本格時代劇」健在を印象づけたものだが、時代劇も時とともに変わる、それが“面白時代劇”の流れだ。


「引っ越し大名」の象徴が“引っ越し奉行”に任命された主演の星野源。俳優にして音楽家、文筆家としても活躍中。そんな彼が、見た目通り?剣の腕はさっぱりだが、意外な得意技を発揮して総移動人数1万人、距離600キロという超難関プロジェクトに挑むのだから、けっこうサスペンスフルな展開だ。


hikoshidai-500-2.jpg加えて藩の財政はどん底状態。引っ越しを成功させるには家財を減らし、人も減らす大リストラの挙げ句、商人から恥を忍んで借金しなければならない。それほどの至難の作業をどのようにこなすのか、これはさながら難題に出くわしたサラリーマン物語のようでもある。


実際、人気のサラリーマン小説の映画化作品でも“万年平社員”が、会社のピンチに断固、信念を通し、正義を貫いて社を救う「端っこ」ヒーローが主役になる。普段、役に立たないと見られている男の大逆転劇、これは男(サラリーマン)の夢物語といえるかも知れない。


hikoshidai-500-3.jpgかたつむり大抜擢の理由は「いつも本ばかり読んでいるからいろんな知識がある」と目されたこと。会社の難儀に無難な人間を抜擢する、ということはよくあることだ。そんなかたつむり侍にも味方がいて、春之介の幼馴染み、鷹村源右衛門(高橋一生)と前任の引っ越し奉行の娘、於蘭(高畑充希)。立ち回りは春之介に代わって源右衛門が引き受け、於蘭とのラブロマンスがてきぱきと引っ越しを進めていく。家財にこだわる上司に遠慮会釈なく棄てるシーンなどは「いずこも同じ」と笑いを誘われる。


hikoshidai-500-4.jpg大名の引っ越しには思わぬ妨害がたちはだかるが、苦労の末、引っ越しが済んだ時はつい胸なで下ろしてしまった。いつか春之介気分になっていたのだ。エラい、よくやった。


(安永 五郎)

公式サイト⇒ http://hikkoshi-movie.jp/

© 2019映画「引っ越し大名!」製作委員会

 

カテゴリ

月別 アーカイブ