制作年・国 | 2019年 日本 |
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上映時間 | 2時間10分 |
原作 | 三田紀房「アルキメデスの大戦」(講談社「ヤングマガジン」連載) |
監督 | 監督 脚本 VFX:山崎貴 |
出演 | 菅田将暉、柄本佑、浜辺美波/笑福亭鶴瓶、國村隼、橋爪功/田中泯、舘ひろし |
公開日、上映劇場 | 2019年7月26日(金)~全国東宝系にてロードショー |
~「巨大戦艦建造計画」を阻止する天才数学者~
日本映画は誕生以来、数多くのヒーローが登場し、それぞれの時代で見る者を熱くさせてきた。だが、「アルキメデスの大戦」の主人公ほど派手さのないヒーローは見たことがない。主人公は海軍主計少佐・櫂 直(かいただし)(菅田将暉)。エラいさんの海軍少佐だが、その正体は帝大数学科で百年に一人の天才と呼ばれた数学者で「大の軍人嫌い」。大学を中退してアメリカに留学予定だったが、あの山本五十六海軍少将から「たっての頼み」と請われて転身したのだから鼻から風変わりな存在だった。
彼が命じられた役目は海軍省が密かに建造しようとしていた巨大戦艦計画を阻止すること。使うのは鍛え抜かれた肉体でなく、「天才的な頭脳」なのだからアクション・ヒーローとはほど遠い。歴史的な偉人ならいたかも知れないが、数学者のヒーローなんて、こちらも見たことがない。全世界的に複雑微妙な時代、戦争映画だって変わらないといけない、ということか。
日本が欧米列強と激しく対立し始めた1933年(昭和8年)、海軍省 は「世界最大の戦艦」を建造する計画を進めていた。一方で「これからの海戦は航空機が主流」という自論を持つ海軍少将・山本五十六(舘ひろし)は「巨大戦艦がいかに無駄遣いか」を明白にしようと考えていた。「戦艦建造計画」の見積もり額は意外なほど安い。何故か? そこにからくりがある、と見た五十六少将は軍部の息がかかっていない人材を探した結果、目を付けられたのが変わり者の天才数学者だった…。
という訳で、本題は「戦艦建造」の本当の値段がいくらなのかを突き止める、というまことに地味な作業になる。ところが、この数学者の作業(計算が主)が実に興味深く、面白い。建造推進派が一切の情報を秘匿し“軍の機密”という分厚い壁が少佐の前に立ちはだかる。そこを天才数学者がどう打ち破るか、“決定会議”までという時間との戦いも加わるスリリングな展開にぐいぐい引き込まれていく。
戦艦の寸法を測ろうとして、軍部から断られても櫂少佐は巻き尺を持ち出して自分で計る。「分からなかったら足で稼いで計ればいい」と設計図も見ないで実物大の戦艦を描き上げてしまう。相手は帝国海軍。巨大な権力の真っ只中に単身、飛び込んでいく彼は、まさしくヒーローと呼ぶにふさわしい存在だ。
ハイライトはラストの決定会議。櫂少佐の計算がかろうじて間に合い、海軍の決定にストップをかけるあたりの痛快さは特筆ものだ。そこに山本五十六少将の衝撃的なひと言が加わって、映画は日本の運命を決定づけることになる。
遠く、昭和17年の伝説的作品「ハワイマレー沖海戦」(山本嘉次郎監督)につながる戦争映画の系譜と深みを感じさせる。この映画は開戦直後、海軍省の命令で作られた“祝勝映画”だが、主役は戦艦ではなく、天才数学者が目指した航空母艦だった。そこに戦争の歴史的事実と皮肉を感じるのは考えすぎ、だろうか。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://archimedes-movie.jp/
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