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『パリの家族たち』

 
       

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作品データ
原題 La fete des meres
制作年・国 2018年 フランス 
上映時間 1時間43分
監督 マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール(『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』)
出演 オドレイ・フロール、オリヴィア・コート、クロチルド・クロ、パスカル・アルビロ、ジャンヌ・ローザ、カルメン・マウラ、マリー=クリスティーヌ・バロー、ニコール・ガルシア、ノエミ・メルラン
公開日、上映劇場 2019年6月21日(金)~シネ・リーブル梅田 、6月22日(土)~ 京都シネマ、6月28日(金)~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開

 

~母親は不死身!?母の日に奏でる一大協奏曲~

 

パリを舞台に境遇も職種も多様な女性たちが登場する群像劇。イザベル(パスカル・アルビロ)、ナタリー(オリヴィア・コート)、ダフネ(クロチルド・クロ)の三姉妹を軸に様々な人間ドラマが描かれる。それぞれ小児科医、大学教授、ジャーナリストとしてバリバリ働くキャリアウーマンだが、三姉妹の母ジャクリーヌ(マリー=クリスティーヌ・バロー)が認知症で度々警察に保護されるようになったのが悩みの種だ。そのほか未婚、既婚、バツイチ、妊婦に経産婦に娼婦と、あらゆる種類の女たちとその家族が人生の節目を迎えようとしていた。


parikazoku-500-2.jpg登場人物が多く色々なエピソードがスポット的に挟まれるため、一つひとつ関係性を追っていくと混乱してしまうかもしれない。むしろエピソードをパート演奏のようにとらえ流れに身を委ねるのがおすすめ。軽やかなフレーズも哀切なフレーズも叩きつけるような激しいフレーズも混然一体となってひとつの協奏曲が完成する。やがて意外な関係性が明らかになり、物語はメビウスの輪のように一つになるのだった!


物語のなかのXデーは「母の日」だ。言わずと知れた5月の第二日曜日、この、母の日発祥のいきさつがナタリーの講義を通して紐解かれる。その歴史は20世紀初頭、アメリカに始まりヨーロッパへと広がりを見せる。ちなみに日本に伝わったのは明治の終わりらしい。さて、時代は変わり家族の形が多様化する現代、パリの小学校で母の日の取り組みをやめる説明がなされると、なんと怒った母親たちによる抗議デモが行われるのだが、それはさておき、それまで思い悩んできた登場人物たちも決断のときを迎える。


主に母親と娘との関係に焦点を当てたストーリーだが、初の女性大統領が任期中に出産するという大胆な設定でドラマを盛り上げた。育児と仕事を両立させるのはどんな職業でも楽ではないが、大統領とはただ事ではない。それを育児休暇を取って支える夫。これがなかなか顔が出ないのに存在感は大きく、ごく自然に映るところがフェミニズム先進国らしい。さらにゲイのカップルも登場し、子どもとの関係を母性、父性と切り分けず、より大きな、命を受け継ぐというテーマとして捉えている。


parikazoku-500-1.jpgこの作品を撮ったのは「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」のマリー=カスティーユ・マンシオン=シャール。子どもを持つ、持たない、までは入り口の話。その後の長きにわたる育児と大人同士となった親子関係こそが人生そのものである。思えば、息子が父を踏み台にするかどうかはわからないが、娘は母を踏み台というかたたき台にして大人になるところがある。ジャクリーヌの三人の娘は母親の個性を分け合っている。そして、最も家庭的な面を持つイザベルに対し母はつらく当たることが多かった。


娘は母親の生き方を幼いころからじっと見ている、反発も嫌悪も尊敬も憧憬もすべては母に対する尽きせぬ興味からだ。母と同じ轍を踏まぬようにと念じる娘、子を持って初めて母の捨てられぬ自我を理解する娘、まったく別の個性だと気づく娘。すべては母という踏み絵から得られる人生訓だ。


さて、あなたが娘なら、この映画を観てあなたの周りの母なる存在を改めてみつめてみてほしい。あなたが息子なら、ただただ母の強さを感じられることでしょう。また、ナレーションが語る、母親にときに反発したり要求がエスカレートしてしまう理由を「母親が不死身と思っているから」というのも秀逸!


(山口 順子)

公式サイト⇒ http://synca.jp/paris/

© WILLOW FILMS – UGC IMAGES – ORANGE STUDIO – FRANCE 2 CINÉMA

 

 

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