原題 | THE OLD MAN & THE GUN |
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制作年・国 | 2018年 アメリカ |
上映時間 | 1時間33分 |
原作 | デヴィッド・グラン「The Old Man and The Gun」 |
監督 | 監督・脚本:デヴィッド・ロウリー |
出演 | ロバート・レッドフォード、ケイシー・アフレック、ダニー・グローヴァー、トム・ウェイツ、シシー・スペイセク、チカ・サンプター |
公開日、上映劇場 | 2019年7月12日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ西宮OS 他全国ロードショー |
~〈反逆の挽歌〉で引き際を演じたロバート・レッドフォード~
天才的な野球選手といわれながら、なかなかプロからお声がかからず、35歳になってやっとこさメジャーリーグで活躍。そんな実在の人物を描いた『ナチュラル』(1984年)という野球映画がありました。ハリウッドの人気俳優ロバート・レッドフォードの出演作で、ぼくの一番好きな映画なんです。すんなりと人生を運べない不器用な男の悲哀と権力(メジャーリーグ)への反逆性が全身からにじみ出ていたからです。この反逆性がレッドフォードを読み解くキーポイントだと思います。
甘いマスクにブルーアイ、そして赤みを帯びた金髪。そんな青年をハリウッドが放っときますかいな。そのルックスとオーラからして、レッドフォードは映画界の王道を歩む資質を持っていました。ところが、『逃亡地帯』(1966年)ではあえて脇役に甘んじ、ニューシネマの代表作『卒業』(1967年)ではオファーのあった主演を断るなど「ヘンコ」な面を出し、ようやくポール・ニューマンとの共演作『明日に向って撃て』(1969年)でスターダムへと上り詰めました。そのとき32歳です。
次作の『スティング』(1973年)で不動の地位を築いたかと思えば、5年後、反ハリウッド色を打ち出すサンダンス映画祭を主催し、インディペンデント映画に力を注ぎます。こんな具合に一筋縄ではいかない映画人……。ぼくはそういうところがすごく好きです。権力に対して斜に構える。何となくぼくと似ています。
そんなレッドフォードの俳優引退作が本作です。『さらば愛しきアウトロー』という邦題に惹かれますね。御年、81歳。かつてあまりにもイケメンゆえ、昨今、そのギャップが激しく、「もうこれ以上、スクリーンでしわを見るのんイヤやー!」という声が少なからずありました。ちょうどええ潮時です。でも、都はるみしかり、引退宣言しながら、復帰してはる人が結構、多いです。どうかこれできっちり身を引いてくださいね。約束ですよ、ほんまに。
この映画の主人公、フォレスト・タッカーもレッドフォード同様、反逆性を持っています。アメリカでは伝説的な銀行強盗として知られているそうです。強盗には必携の拳銃を持ちながら、一度も発砲したことがなく、当然、人を傷つけていない。というか、そもそも銃弾を込めていなかったらしい。しかも捕まってもすぐに刑務所から逃げ出していました。何と生涯で18回も脱獄したというから、パピヨンも真っ青!
映画は1980年代の初め、タッカーが70歳ごろの話です。青いスーツを着こなす初老のアウトローが実にこじゃれた感じで銀行強盗をやってのける。そこでは犯罪者のいかつい顔ではなく、ダンディーな男の顔になっていました。「この稼業、好きで好きでしゃあないねん」という気持ちがびんびん伝わってきます。
おそらく本人は「善人」なのでしょう。「黄昏ギャング」の仲間、テディ(ダニー・グローヴァー)とウォラー(トム・ウェイツ)もそうです。根っからの悪(ワル)やおまへん。とことん愚直に犯行を遂げる姿が本作の持ち味。そうそう、ロックの殿堂に入っているアメリカン音楽の大御所トム・ウェイツがなかなか渋い演技を披露しています。
タッカーに絡む人物が2人います。1人はベテラン女優シシー・スペイセク扮するジュエルという熟年女性。夫を亡くし、すでに子どもは独立しており、独りで牧場を経営しているしっかりウーマンです。これぞ大人の恋愛という関係をタッカーと築いていく辺りがすごく心地よかった。スペイセクはええ塩梅に年を取っていますね。
もう1人がタッカーを追う刑事ジョン・ハント。黒人の愛妻モーリーン(チカ・サンプター)と子どもたちに囲まれて幸せに暮らす、これまた「善人」そのものです。この刑事に扮したケイシー・アフレックは、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で実証したように、小市民を演じさせたら巧いですね。
物語は意外なほど淡々としています。激しいアクション・シーンやカーチェイスを期待したらあきません。犯罪を重ねていく初老男の吐息を黙って感じ取る、そんな映画だと思います。
胸の内に痛みを秘めたヒーローという役どころを演じてきたレッドフォードには、タッカー役がぴったりですね。
強いて言えば、もう少し痛みを出してほしかった。過去の苦しい体験とかマイナス面とか、あるいは銀行強盗に対する贖罪の気持ちとか……。でも、けれん味を出さず、反逆性を発散させて、あえて〈小品〉で俳優稼業を辞めるところにレッドフォードの矜持があるのでしょう。そう、この映画は一時代を築いたハリウッド俳優の挽歌なのです。
本作の映画宣伝マンがこんなことを言うてはりました。「超有名俳優C・Eはレッドフォードよりも年上の89歳。しかも俳優引退映画がこれまたよく似た老人の犯罪者役の作品でしたが、あまり比較しないでください」。そうは言うものの、絶対に比べたくなりますね。でもぼくはグッと我慢して、この原稿をレッドフォード1本で書かせてもらいました(笑)。
これからは映画監督としてのレッドフォードに期待しましょう。『普通の人々』(1980年)や『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992年)など数々の秀作を世に放ってきましたからね。そうなれば、否が応でも、ますますC・Eと比較されますが、それも運命、運命~(笑)。何はともあれ、お疲れさまでした!
武部 好伸(エッセイスト)
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