制作年・国 | 2019年 日本 |
---|---|
上映時間 | 1時間53分 |
原作 | 原案:望月衣塑子(「新聞記者」角川新書刊)、河村光庸 |
監督 | 監督:藤井道人 脚本:詩森ろば、高石明彦 音楽:岩城太郎 |
出演 | シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、岡山天音/西田尚美、高橋和也/北村有起哉、田中哲司 |
公開日、上映劇場 | 2019年6月28日(金)~なんばパークスシネマ、シネ・リーブル梅田、MOVIX京都、神戸国際松竹 他全国ロードショー |
~国家機密に迫る記者とエリート官僚~
近ごろ、とんと見なくなった映画だ。新聞記者が国家機密を追いかけて権力と闘う、今どき珍しい正義感あふれる構図に熱くなった。東京新聞記者が書いたベストセラーを基に企画製作された作品。タイトルもそのままズバリ、「新聞記者」。“現在進行中”でもある政治事件が何とも生々しい。
先ごろとある健康施設で「お仕事は」と聞かれて「ブンヤ」と言うと「ブンヤって何ですか」と聞き返された。ありゃ? スポーツ紙記者として長年働いてきたが、今やその程度の認知度しかなかった。この話には友人の元朝日新聞記者OBも「そういう時代なのかな」と時の流れをひしひしと感じた。
メディアの主役はとっくにテレビやネットに移り、新聞は購読者の減少傾向が止まらない。そんなブンヤが“権力の監視役”としてクローズアップされたのだからまさに珍品と言える。
“一強男”のそば屋メニュー(通称モリカケ)を彷彿させる“ヤバイ時事映画” で実際、製作中はヤバいこともあったらしい。苦心の末、完成した映画は期待を裏切らない、手に汗握る“サスペンス”になった。
昔テレビで見た「事件記者」は主に殺人事件など市せいの事件を扱っていたと記憶しているが、ブンヤの端っこにいた者(芸能&野球担当)の懐旧談として、新聞記者は「強大な敵を相手に闘う」のが本来の使命だったはずだ。当方は国家権力や極秘文書などには無縁だったけれど…。
映画の主役は東都新聞社会部の女性記者・吉岡エリカ(シム・ウンギョン)。彼女のもとに「医療系大学の新設」に関する極秘文書がファックスで届く。誰が送ったのかは不明。許認可先の内閣府を洗い始めた吉岡は神崎という人物の存在に気付くが、その矢先、神崎が自殺してしまう。なぜか?
神崎のもとで働いていたのが外務省から出向してきたエリート官僚・杉原拓海(松坂桃李)。彼はかつての上司、神崎が「自殺するはずがない。そこに何かがある」と感じ取り「内閣特別調査室(通称・内調)」内部で調査を始める。信念のあるブンヤ吉岡にも、エリート官僚の杉原にも圧力がかかる。吉岡には新聞記者だった父親が“誤報”をきっかけに追い詰められた過去があり、杉原も神崎が5年前に重大な罪を一人でかぶった事実を知っている。それぞれ重い過去を背負った二人が、立場を超えて同じ標的にアプローチしていく…。
吉岡は上司から父親のことを出され「誤報は許されない」「諦めろ」「手を引くように」と言われ、「忠告はしたぞ」と念を押される。大体、どんな大スクープも国家権力によって“誤報”にされてしまう時代だ。杉原もまた、妻の出産を控えて曲がり角に来ていた。吉岡は思いあまって杉原に協力を要請する。「俺は国側の人間だ」と当初は断るが、神崎の自殺以降「俺は一体、何を守ってきたのか」と悩んできた杉原は吉岡に協力を約束する。
吉岡の熱意が実って「新大学建設」が1面頭のゲラ刷りが出来た時の充実感は他人事ながら納得できた。ブンヤはこうでなくっちゃ。杉原の「協力」がどこまで本物か、出色の政治サスペンスは最後、そこに焦点が絞られる。忖度やフェイクニュースが巾をきかせ、報道のあり方が厳しく問われる今、本来の“事件もの”が提起した作品が、どう受け止められるか、極めて興味深い。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://shimbunkisha.jp/
(C)2019「新聞記者」フィルムパートナーズ