原題 | 原題:The Ice King |
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制作年・国 | 2018年 イギリス |
上映時間 | 1時間29分 |
監督 | ジェイムス・エルスキン(『パンターニ/海賊と呼ばれたサイクリスト』) |
出演 | ジョン・カリー、ディック・バトン、ロビン・カズンズ、ジョニー・ウィアー、イアン・ロレッロ ★ナレーション:フレディ・フォックス(『パレードへようこそ』『キング・アーサー』) |
公開日、上映劇場 | 2019年5月31日(金)~新宿ピカデリー、東劇、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 ほか全国順次公開 |
貴重な映像と共に蘇る天才スケーター、
ジョン・カリーの知られざる光と影
いま私たちが羽生結弦の完璧な演技に感動できるのも、磨き抜かれた技術と精神から創り出される想像を超えた世界の優雅さにあるように思う。時に神聖な空間に入り込んだような異次元の感動に涙することもある。そんなフィギュアスケートを芸術として高めたのがジョン・カリー(1949年生まれのイギリス出身)である。本作は、彼自身の性的マイノリティからくる疎外感や孤独、芸術的創造世界での苦悩など、知られざる光と影が、貴重な映像と共に明らかにされる珠玉のドキュメンタリー映画である。
ジョン・カリーは7歳の時にバレエを習いたかったが、息子に「男らしさ」を求めた父親の反対に遭いアイススケートの道に進んだ。やがてスケートの技術だけでなく音楽と融合したバレエの優雅な表現を取り入れた独自の世界観で観客を魅了していく。アイススケートを「スポーツ」から「芸術」へと昇華させた立役者であり、現在のフィギュアスケート競技でショートプログラムがコンパルソリー・フィギュア(規定)と呼ばれていた時代のインスブルック五輪(1976年)の金メダリストである。
アイススケートがメジャーなスポーツとして冬季オリンピックの華とされるようになり、各選手権大会にも注目が集まった。さらにエンタテイメントとしてのアイス・ショーの人気を高めるなど、ジョン・カリーが現在のフィギュアスケート界にもたらした影響力は計り知れないものがある。だが、輝く栄光を手にしてきたジョン・カリーは、子供の頃から性的マイノリティとしての疎外感に苦悩していた。とりわけ父親の無理解は彼を孤独にした。カリスマ的存在になっても臆病ゆえに多くの愛を求め、1980年代半ば頃から流行したエイズに感染してしまい、1994年に44歳という若さでこの世を去る。
とかく技術ばかりが高度化するフィギュアスケート界だが、音楽の精神性を表現できる「心・技・体」の完成度こそ、人々の心に残る演技に繋がるような気がする。そうした芸術的表現の重要性を世に示したのがジョン・カリーその人である。栄光の影にある苦悩こそが、彼の原動力になっていたのだろうか。哀しい性に捉われた天才ゆえの苦悩なのか。本作を通して知る彼が生きた時代に思いを馳せると、「クイーン」のフレディ・マーキュリーやバレエダンサーのルドルフ・フレエフを思い浮かべる。それぞれ、現代でも大きな影響力を与えた天才たちだ。
札幌五輪(1972年)の華と言われ、未だに記憶に残る選手は、金メダリストではなく銅メダルのジャネット・リン(アメリカ)である。彼女は、フリーの演技ではトップだったが、規定が苦手で銅メダルに終わった。尻もちをついても可愛い笑顔の演技は忘れられない。ソチ五輪(2014年)の浅田真央も然り。表彰台には上がれなかったものの、メダリストより彼女の渾身の演技に心を持っていかれた。平昌五輪(2018年)では、金メダリストのザギトワのより銀メダルに終わったメドベージェワの「アンナ・カレーニナ」に魅了された。これからも、勝負より心に残る演技に出会いたいものである。
(河田 真喜子)
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