制作年・国 | 2019年 日本 |
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上映時間 | 2時間 |
原作 | 佐伯泰英「居眠り磐音 決定版」(文春文庫刊) |
監督 | 監督:本木克英 脚本:藤本有紀 音楽:高見優 |
出演 | 松坂桃李 木村文乃 芳根京子 柄本佑 杉野遥亮 佐々木蔵之介 陣内孝則 谷原章介 中村梅雀 柄本明ほか |
公開日、上映劇場 | 2019年5月17日(金)~全国ロードショー |
~哀しきかな、理不尽な武家社会に冴えわたる磐音の必殺剣~
時代劇の真髄は「チャンバラ」だと言ったら怪訝な顔をする人がいた。無理もない、か――今やジャンルとしては衰退一途の時代劇。刀を振り回して斬り合いする、なんて一体いつ、どこの話? ガン・アクション全盛の今、遠い昔話か。だが“元映画子供”のシニアには心の故郷は剣一本で悪をやっつけ、正義を追求するチャンバラ時代劇こそが原点だった。東映や大映などではほぼ毎週、新作を上映していたものだ。そんな少々懐かしい“僕らの仲間”「赤胴鈴之助」みたいな映画が『居眠り磐音』だ。
原作はベストセラー作家・佐伯泰英。テレビ・ドラマ化はされているが、映画化はこれが初めてという。もとより、往時と違い、立ち回りはリアルそのもので殺気すら感じさせるど迫力。一撃必殺の剣の凄みには惚れ惚れする。そんな彼が相手にするのは封建制、武家社会の尋常ならざる理不尽。いくら磐音が強くてもスパッと一刀両断とはいかない。
剣の腕前に秀でた坂崎磐音(松坂桃李)は、道場で一番の腕だが、もの静かな構えはまるで眠っているように見え“居眠り磐音”と呼ばれる。剣豪で居眠りと言えば、またまた昔懐かしい市川雷蔵『眠狂四郎』。やはり時代劇は大映の両巨頭・勝新(太郎)『座頭市』、雷蔵『眠狂四郎』からさほどジャンルが広がっていないのかもしれない。磐音は、江戸務めを終え帰った故郷・豊後関前藩でいきなり悲運に見舞われる。幼なじみで僚友の琴平(柄本佑)の上意(藩命)打ちを命じられる。
琴平は祝言を控えた磐音の許嫁・奈緒(芳根京子)の兄だった。凄まじい戦いの末、討ち果した磐音だが、しきたり厳しい武家社会のこと、“兄殺し”の磐音はけじめをつけ、すべてを捨てて脱藩、江戸で一人、浪人暮らしを始め、昼間はうなぎ屋で包丁を握る。なんと…。
長屋暮らしにも困窮した磐音は、長屋の大家・金兵衛(中村梅雀)の紹介で両替屋・今津屋の用心棒として働き始める。これほどの腕の持ち主、周りが放っておく訳はない。金銭がらみの仕事に、ならず者がゆすりたかりにやって来るところは今も変わりない。磐音はやむを得ず、一度は捨てた剣を取る…。
昨年の東宝「散り椿」(岡田准一主演)同様、人情を重んじ、礼節正しい立ち居ふるまいが、本来あるべき“日本の男”の姿だった。時代小説がもてはやされ、映画できちんと作法や礼儀が描かれるのは“懐古”もあるが、日本人としての源流探しのようで見ていて気持ちいい。昨年はピントはずれのユルフン時代劇にがっくりしたし、近ごろはビジュアル系時代劇も持てはやされているようだが、格調高い生き様が時代劇本来の持ち味だ。
女の描写もきわめて礼節正しい。僚友が「妹が不貞を犯した」という噂だけで妹を斬り殺し、そのために親友・琴平と闘うハメになるなどは尋常ではない。磐音はそんな不条理を一度は剣で正すが、武家社会の在り様までは変えられない。許嫁・奈緒は「磐音様をいつまでも待ちます」と誓うが彼女にも時代の運命は容赦なく襲いかかる…。
両替商にも老中・田沼意次による時勢の変化にさらされるが、元藩の勘定方だった磐音の才が活かされる。やっぱり赤胴鈴之助だ。近所の子供らにうなぎをおごってやる平穏な暮らしの中、磐音を待ち続けていた奈緒の運命は…。ラスト、俯瞰によるロングショットには磐音の腕前でも届かない(正せない)不条理の悲しみが混もっているようで、せつなく心に迫ってくる。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://iwane-movie.jp/
©2019映画「居眠り磐音」製作委員会