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『ガラスの城の約束』

 
       

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作品データ
原題 The Glass Castle  
制作年・国 2017年 アメリカ
上映時間 2時間7分
原作 ジャネット・ウォールズ「ガラスの城の約束」(ハヤカワ文庫)
監督 デスティン・ダニエル・クレットン 
出演 ブリー・ラーソン、ウディ・ハレルソン、ナオミ・ワッツ 
公開日、上映劇場 2019年6月14日(金)~シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、シネ・リーブル神戸ほか全国公開

 

~価値観の違いを認め合い、自分の人生を生きる~ 

 

ジャネット(ブリー・ラーソン)は美しく知的でウィットに富んだキャリアウーマン。今夜も会計アドバイザーの婚約者をアシストすべく、契約の取れそうな資産家との会食に同席している。両親の職業を聞かれて、母はアーティスト、父はエンジニアと答えるが、実際は無人のビルに入り込む不法入居者、つまりはホームレスなのだ。それはジャネットら姉弟の幼少期に端を発する。


garasu500-5.jpg原作はニューヨークマガジンの人気コラムニスト、ジャネット・ウォールズの自叙伝「The Glass Castle」。2005年の出版当初から大きな反響を呼び、今では30以上の言語に翻訳され世界中で読まれている。映画化は難しいと思われたが「ショート・ターム」でもブリー・ラーソンとタッグを組んだデスティン・ダニエル・クレットンが実現にこぎつけた。


garasu500-2.jpgレックス(ウディ・ハレルソン)は社会に対して痛烈な批判精神を持ち、独自の価値観で生きている。妻のローズマリー(ナオミ・ワッツ)は子どもの食事を作るより絵を描くことに忙しく、幼いジャネットを日常的に台所に立たせていた。そんななか、事件が起こる。ジャネットがコンロで大やけどを負うのだ。育児放棄を疑われた二人はジャネットら姉弟をバンに乗せ病院を抜け出す。西から東へアメリカ大陸横断の遥かな旅の始まりだった。自然科学や芸術に詳しいレックスは、子どもたちに様々な知識を与え、家族の夢の象徴であるガラスの城の設計図を描いた。ジャネットは目を輝かせて父の話を夢中で聞いたが、辿り着いた先は安住の地ではなく、やがて両親のやり方に疑問を抱くようになる。


garasu500-4.jpgここ数年「毒親」という言葉をよく耳にするようになったが、初めてこの言葉が世に出たのは1989年だと言われている。ジャネット29歳、この映画のはじまりの年でもある。彼らは毒親だったのだろうか。物語が進むにつれレックスの抱える問題も明らかになる。尊重されずに育った少年時代の傷に今なお苦しみ、酒を飲むことで凌いでいたのだ。彼らを見ていると、重要なことは、いつから自分の人生を始めるかだと気づかされる。蕎麦や卵が食べられない人がいるように、体に合わなければ毒になる。問うべきは、それが毒かどうかではなく、自分にとってどうなのかである。あるいは、その環境(場所・人)が好きかではなく、そこにいる自分が好きかと考えてみる。もし、好きだと思えないなら、それは無理をしている証拠かもしれない。


garasu500-3.jpgやがて姉弟は親から逃げ出す計画を立てる。衣食住などの基本的な養育義務を怠っている事実を愛情という言葉で帳消しにすることはできないが、生き抜く強さと賢さを授けたのもまたレックスであることに、家族というものの複雑さがある。ジャネットが婚約者を家族に会わせるシーンも印象的だ。すっかり都会人になったようでも、無理やり父親に腕相撲をさせられる婚約者を気遣いつつ、いつしか一緒になってヤジを飛ばし合うジャネット。これが家族の空気感を巧みに表している。どんなに疎んでも、そこにルーツがあることの紛れもない証明だ。クレットン監督は、一見矛盾していることを重奏的に描き、作品に厚みを与えた。そのリアリティは原作者をも驚かせたほどだ。


garasu500-1.jpg価値観の違いを認め合うとは言葉で言うほどたやすくはない。しかし、認めるとは従うことではない。否定でも肯定でもなく、親の人生を客観的にみつめることができたとき、はじめて人は心から自由になれるのではないだろうか。ここには現代社会が抱える様々な問題が映し出されているが、ここで描かれるもっとも大きな物語は、実はどこの家庭にもある、子が親を乗り越えてゆく成長の物語だ。そして、それは、苦境に立つすべての人にエールを贈る物語でもある。


(山口 順子)

公式サイト⇒ http://www.phantom-film.com/garasunoshiro/

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