制作年・国 | 2019年 日本 |
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上映時間 | 2時間3分 |
原作 | 南勝久『ザ・ファブル』(講談社「週刊ヤングマガジン」連載) |
監督 | 監督:江口カン 脚本:渡辺雄介 |
出演 | 岡田准一 木村文乃 山本美月 福士蒼汰 柳楽優弥 向井理 佐藤二朗 安田顕 佐藤浩市 |
公開日、上映劇場 | 2019年6月21日(金)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹、ほか全国ロードショー |
~「情け容赦ない」 非情な殺し屋、日本映画にも~
目にも止まらぬ一瞬の早技で取り囲む敵を仕留める。その素早いこと。「どんな相手も6秒以内に殺す」ことから“ファブル”(寓話)と呼ばれる謎の殺し屋(岡田准一)が主人公。かつてハリウッド専用だった「情け容赦ない非情な殺し屋」がついに日本にも登場した。
原作は「週刊ヤングマガジン」連載中の人気漫画。最近、漫画原作の映画に力作が目立つのは設定やスケールで小説以上の発想が出来るから、か。主演は脂の乗り切った岡田准一。昨年、時代劇「散り椿」で鮮やかな殺陣を見せたのも記憶に新しいが、現代劇でも役どころは鮮やかな殺し屋、とくればヒット間違いなしだろう。
“圧倒的に強い”殺し屋の物語。漫画ではすでにお馴染み、オールドファンには懐かしいあの「ゴルゴ13」(68年スタート)の再来だ。一発必中、正確無比のスナイパー。しかも無敵の強さという同じキャラ。だが、ゴルゴの登場から約半世紀、令和の映画では厳しい制約が加えられているのがミソだ。
激しい仕事をし過ぎたファブル(岡田准一)に、ボス(佐藤浩市)が与えたミッションは「1年間、誰も殺すな。一般人に溶け込み普通に暮らせ」。さらに「休業中に誰かを殺したら、俺が殺す」という、ファブルにとってはまさに“ミッションインポッシブル”。凄腕男がじっとしてられる訳がないやろ、と思わせるあたりが興味深い。
ジャンルは違うが、同じ必殺剣、居合い切りの座頭市(勝新太郎)が思い浮かぶ。目の見えない座頭市が散々馬鹿にされながらじっと堪える場面は「表向き弱者」が隠した凄腕をいつ見せるのか、ワクワクさせる。こんな屈折した興奮もまた久しぶりだ。
ボスに絶対服従の彼は「佐藤アキラ」の偽名で、相棒のヨウコ(木村文乃)と兄妹のフリをして、大阪へ行く。ここでもボスのツテで裏社会の社長・海老原(安田顕)に世話になりながらも、生まれて初めて一般社会に溶け込もうと真面目に努力し始める。フツーの人には簡単なことが凄腕の殺し屋には大変な難作業だった。そんなファブルを周囲が放っておく訳がない。海老原の弟分で出所したての小島(柳楽優弥)と組織の現幹部(向井理)の確執などに否応なく巻き込まれていく…。
「容赦ない殺人」は銃撃シーンを見ても明らか。ファブル は銃を向けるやなんら躊躇なく撃つ。画面に何秒か、表示されるが、何発連射 しても外すことがない。一人一殺のゴルゴ13と異なるところだ。こんな“情け容赦ない殺し屋”は実はハリウッドが先行している。近年、激しさを増したハリウッド・アクションでは、メジャー・スター、トム・クルーズ「M:I-3」のように非情に徹し切れない作品もあるが、ニコラス・ケイジ主演のリベンジもの「トゥ・ヘル」(18年)などはより凄まじいし、キアヌ・リーブスの『ジョン・ウィック』シリーズが究極と言える。殺された妻が遺言代わりに残してくれた犬を殺され、愛車を盗まれたことから復讐心が燃えあがり、文字通り徹底的にリベンジし尽くす。そこまでやるか、と感心するほどの徹底ぶりだ。
「ファブル」は、ニコラス・ケイジ、キアヌ・リーブスのハリウッド路線=容赦ない非情さの徹底を、シャープな体の切れでは目下ピカイチの岡田准一による日本版殺し屋映画。巷では、母子が高齢ドライバーの暴走車にはねられ、青信号で渡ろうとしていた学童がボケた運転手にひかれるなど無残な事故が相次ぐ。日常生活でも不条理な事態が頻発している昨今、非情な殺し屋はますます非情にならなければ“仕事(映画)にならない”時代になっているのかも知れない。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://the-fable-movie.jp/
©2019「ザ・ファブル」製作委員会