制作年・国 | 2019年 日本 |
---|---|
上映時間 | 116分 |
監督 | 脚本・原案:塩田明彦 |
出演 | 小松菜奈、門脇麦、成田凌他 |
公開日、上映劇場 | 2019年5月31日(金)より全国ロードショー |
~共に奏でる音色よ、永遠に〜
今一番輝いている俳優が、役を演じているというよりは、女性デュオ「ハルレオ」という初めて出会うミュージシャンとしてそこに立ち現れる。スタンディングスタイルでアコースティックギターを鳴らしながら歌う二人の声が、やわらかく重なり、聴くものに優しく届くのだ。漫画原作のバンド映画やロック映画は多々あれど、女性のアコースティックデュオを描く映画はなかったなとしみじみ思う。しかもハルを演じる門脇麦と、レオを演じる小松菜奈が性格は真逆ながら、姉妹のようなマッシュルームヘアで、とにかく可愛い!その二人の関係に大きな影響を与える付き人のシマを、『愛がなんだ』(今泉力哉監督)で人気沸騰中の成田凌が演じているのだから、ミニマムながら、なんて贅沢な音楽映画なのだろうと思わずにはいられなかった。音楽を通じて出会った3人の間に流れる風、ぶつかるエネルギーを感じる、瑞々しい作品だ。
原案、脚本および監督は『黄泉がえり』『抱きしめたい -真実の物語-』の塩田明彦。宮崎あおい主演の『害虫』で音楽を担当したバンド、NUMBER GIRLが映画完成後突然解散を発表し、その解散ライブを見たことにインスピレーションを受けて解散ツアーをするバンドの物語を構想したのだという。実際、映画ではハルレオが全国7ヶ所を巡る解散ツアーをスタートさせるところから始まる。シマの呼びかけにも別々の方向を向きながら答えるハルとレオ。気持ちはすれ違っても、ステージ上ではファンにメッセージを送り、最後の歌声を響かせ続ける。ハルレオが持ち歌を披露する後ろで、時にはタンバリンを鳴らし、時にはエレキでバッキングしながら、二人を見守るシマの表情が切ない。
解散ツアーの日々の間に挿入されるのは、ハルとレオの出会いから、二人が音楽で何かを表現しようと創作活動をし始めた、まさに輝ける日々の数々。孤独な魂を抱えた二人が、バイトで偶然出会い、今の自分の居場所から抜け出して、何か新しいものを作ろうと奮闘する。とにかく魅力的で目を輝かせながら一生懸命ハルにギターを教わるレオといるうちに、レオへの恋心を抱くハルと、ハルを見るシマの目に嫉妬を覚えるレオ、そして自分に気持ちを向けてくるレオに応えられないシマ。見事に一方通行の切ない恋は、ハルレオの歌う歌詞にも重なり、しみじみと聞き入ってしまうのだ。
ライブで何度も歌われる「さよならくちびる」は秦基博が、アップテンポの「たちまち嵐」はあいみょんが書き下ろしている。大阪・北浜の雲州堂(映画では別の場所のライブハウスとして登場)や、函館BAND WAGONなど、地元で愛されているライブハウスも多数登場、何度もハルレオが歌う「さよならくちびる」や「たちまち嵐」を聞いているうちに、見ている側も解散しないで!という気持ちが高まっていく。シンプルないい曲を、ライブという形でまっすぐに届けることの魅力を改めて感じた。ライブという場で起きる化学反応が、解散ツアーをこなしてきた3人の中にどんな変化をもたらすのか。どんな結果が出るにせよ、共に奏でたハルレオの音色は、永遠に心に残るに違いない。
(江口由美)
(C) 2019「さよならくちびる」製作委員会