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『空母いぶき』

 
       

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作品データ
制作年・国 2019年 日本 
上映時間 2時間14分
原作 かわぐちかいじ「空母いぶき」(小学館「ビッグコミック」連載中・協力:惠谷治)
監督 監督:若松節郎 企画:福井晴敏 脚本:伊藤和典、長谷川康夫 音楽:岩代太郎
出演 西島秀俊、佐々木蔵之介、佐藤浩市、本多翼、中井貴一、吉田栄作、玉木宏、高嶋政宏、工藤俊作、山内圭哉、横田栄司、ほか
公開日、上映劇場 2019年5月24日(金)~全国超拡大ロードショー

 

~「防衛」か「攻撃」か、戦争回避のための戦闘とは?~

 

人気漫画は時代の精神や気分を分かりやすく現す媒体だろう。漫画と縁遠くなった今、この映画にはただ驚くしかない。架空の国相手とは言え、かくもリアルで本物チックな戦争ものを体験出来るなんて、時代はそこまで好戦的になっているのか、とびっくり。日本の“不戦の誓い”はどこへ行ったのか? と考えさせられる“戦争予感”物語だ。


近未来、日本のある離島に国籍不明の武装集団が上陸し、国の領土が部分的に占領される。海上自衛隊は訓練航海中の第5護衛隊に出動を命じる。その旗艦は自衛隊初の“航空機搭載型”護衛艦、空母いぶき。これこそ「専守防衛」かどうか「憲法違反」ではないかと物議をかもした“攻撃型戦力”空母だった。ひと足早く始動した空母は期待通り領土を防衛出来るのか。


ibuki-500-3.jpg映画「空母いぶき」はズバリ「自衛隊、もし戦わば」という少々アブない戦争フィクション。近隣諸国との最近のあつれきを考えれば、作りごととは言い切れないのが不気味ではある。空母「いぶき」は敵潜水艦からのミサイル発射を確認。政府は、自衛隊創設以来初めての防衛出動を発令する。日本は「専守防衛」から攻撃へと転じるのか、スリル満点だ。


護衛艦内にも様々な隊員がいて、艦長の秋津(西島秀俊)は「断固直進」を群指令・涌井(藤竜也)に進言するが、副長(佐々木蔵之介)は「任務は海上警備行動。正当防衛以外、攻撃はしない」と抑制する。だが、涌井はミサイルで被弾、指揮権は秋津に委ねられる。群指令は「攻撃されるまで撃ってはならん」と伝えていたが、指揮官によって戦闘態勢が異なる点が興味深く、やはり恐ろしい。


ibuki-500-1.jpgかくて秋津艦長によって映画は“戦う姿勢”に転じる。防衛大学校で同期だったライバルの新波副長の「我々は戦争する力を持っている。しかし絶対にやらない」という主張に、秋津艦長は「戦わなければ守れないものがある」と主張する。


こんないぶきの我慢の姿勢は、東映任侠映画を思わせる。明らかな「他国からの攻撃」に、専守防衛=憲法9条を守ろうとする副長・新波、任侠映画なら鶴田(浩二)、高倉(健)のものだ。任侠ものなら最後のカタルシスがお約束だが、戦争危機想定映画ではどこまで我慢出来るか?


一見“憲法改正支援”映画のようだが、そう単純でないところが達者。いぶきの群指令はじめ、艦長、副航海長や乗組員たちの厳格なまでの9条順法精神こそが主題。これは形を変えた“自衛隊讃歌”か。


ibuki-500-2.jpg実際、架空の国「東亜連合」は、離島の領有権問題でもめるなど、隣国との緊張関係を容易に想像させる。敵が放ったミサイルを何度も迎撃し「わが国の強さ」を思い知らせる場面も再三登場する。そんなシナリオがどこまで事実かは分からないが、これほど優れた防衛力と戦闘力、明晰な判断力、対応力を兼ね備えた組織=自衛隊なら「憲法改正」やむなし、という側面援護になりそうだ。


先ごろの「レーダー照射」事件のような不可解な回答しかしない国とは“国交断絶”という声も強い。「空母いぶき」は乗組員の抑制が希望になるだろうか。首相官邸では内閣総理大臣・垂水(佐藤浩市)ら主要閣僚が集結し、 国連を通じて敵の不法行為をアピールし、戦争回避へと動く。


一方、いぶきに乗り込んだネットニュース の新人記者(本田翼)や、空母とは無縁のコンビニ店長(中井貴一)の平和への誓いも込められる。空母いぶきや内閣総理大臣らの懸命の努力も見もの。実際に見たことはないが、広島の原爆ドームに書かれているという「過ちは決して繰り返しませぬ」という言葉は、どんな時もどこにいても忘れてはなるまい。その再確認とすれば、これは優れた教訓譚ではないか。


(安永 五郎)

公式サイト⇒ https://kuboibuki.jp/

©かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/『空母いぶき』フィルムパートナーズ