映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『僕たちは希望という名の列車に乗った』 

 
       

bokuresha-550-2.jpg

       
作品データ
原題 原題:The Silent Revolution   
制作年・国 2018年 ドイツ
上映時間 1時間51分 ( PG-12) 
原作 ディートリッヒ・ガルツカ「沈黙する教室 1956 年東ドイツー自由のために国境を越えた高校生たちの真実の物語」(アルファベータブックスより4月発刊予定)
監督 ラース・クラウメ 『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』
出演 レオナルド・シャイヒャー、トム・グラメンツ、ヨナス・ダスラ―、ロナルト・ツェアフェルト(『東ベルリンから来た女』)、 ブルクハルト・クラウスナー(『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』)
公開日、上映劇場 2019年5月17日(金)~Bunkamuraル・シネマ、テアトル梅田、5月18日(土)~京都シネマ、6月7日(金)~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開


banner_pagetop_takebe.jpg

 

~たった2分間の「行為」を咎めた旧東ドイツの恐怖体制~

 

ちょうど30年前の1989年、「ベルリンの壁」が崩壊し、その翌年、東西ドイツが統一するという、ちょっと信じられない超ビッグな出来事が起きました。まさに歴史が動いた、そう実感した人が多かったのではないでしょうか。それまで「鉄のカーテン」の向こう側、いわゆるソ連主導の社会主義諸国家(東側陣営)は闇のベールに包まれており、すごく気になる地域でした。とりわけ米ソ東西冷戦の最前線となった東ドイツは東欧の「優等生」と言われていただけに、その実情を知りたくてたまらなかったです。でも、現地ルポといった報道はほとんどなし……。


映画なら、実録スパイ映画の元祖的な『引き裂かれたカーテン』(1966年)、秘密警察(シュタージ)の実態に迫った『善き人のためのソナタ』(2006年)、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015年)などで東ベルリンの暗鬱な空気を知り得ることができました。1961年に「ベルリンの壁」の構築後、東から西へと逃れる人が絶えず、その最大の逃亡劇を再現した『トンネル』(2001年)という映画もありました。ほとんど東ベルリンが舞台ですが、それ以外では、『東ベルリンから来た女』(2012年)という渋い人間ドラマも忘れられませんね。


bokuresha-500-4.jpg本作は「ベルリンの壁」ができる5年前(1965年)の実話を映画化したものです。そのころ東ドイツの各地から西ベルリンまで直通列車が走っていたんですね。映画を観て初めて知りました。東西ベルリンの「国境」の駅でパスポート・チェックを受けるだけで自由に行き来できていたなんて……、びっくりです。これならいくらでも西側へ亡命できたので、危機感を抱いたソ連+東ドイツ当局が壁の建造を思い立ったわけです。


その年の10月、世界をあっと言わせる事件が発生しました。ハンガリーで民主化とソ連軍の撤退を求め、学生と市民が立ち上がったのです。自由を求める市民運動。それに対し、ソ連軍が圧倒的な軍事力で鎮圧しました。ハンガリー動乱です。このときのニュース映像を観ると、まさに内戦そのもの。2500人の市民が殺され、20万人が国外逃亡したといわれています。


bokuresha-500-2-2.jpgこの動きを察知した東ドイツの19人の高校生たちに肉迫したのが本作です。勇気あるハンガリー市民に寄り添った彼らは、犠牲者に対して2分間、黙祷しました。それが歴史の授業中というのが意味深。確固たる意志で臨んだ生徒もおれば、軽い気持ちの者もおり、また逆に反対する者も……。最終的に多数決で行動に移しました。このことがやがて国家を揺り動かす一大事へと発展していきます。


彼らは卒業を目前に控えたエリートクラスの学生です。18歳ともなれば、黙祷することはハンガリー動乱に連帯する意思の表れであり、当然、社会主義体制への反発につながることは重々、承知しています。そこで奇策を弄するところがなかなかクレバーでした。それでも当局は徹底的に首謀者を突き止めようと躍起になります。


見るからに怖そうな女性の学務局長。彼女の氷のように冷たい態度はソ連のKGBスパイ丸出し。あろうことか国民教育大臣まで乗り込んでくるのだから、異常です。高校生に対しても容赦のない国家弾圧。でも、当時の東ドイツ、いや東側陣営では当たり前だったのかもしれません。どこまでも社会主義国家に忠誠を尽くす「原理主義者」。あ~っ、息苦しい世の中です。ぼくには生き延びられません。


bokuresha-500-3.jpgハンガリー動乱は東ドイツでは、「ファシスト反革命分子の反乱」と報じられていました。おそらく他の東側の諸国でもそうだったのでしょう。飛び火するのを恐れる当局が画策した「フェイクニュース」です。真実を知りたければ、西側のラジオを聴くしかありません。しかしそれはご法度。とはいえ、今の北朝鮮と同様、抜け道はいろいろあったようですね。これも映画を観れば、よくわかります。


東ドイツは戦時中、共産主義を忌み嫌ったファシズムのナチス・ドイツを生んだ国とあって、戦後はその反動で過去をすべて清算し、盲目的に社会主義体制を賛美するようになりました。ナチスに関わった人物を公職から追放し、この映画の校長のように、一般の労働者をそれまでのキャリアとは関係なく地位ある仕事に抜擢していたのです。西ドイツでもよく似た措置が取られていましたが、東ドイツほど徹底していなかったようです。


この映画が興味深いのは、それぞれの生徒の家族にまで深く入り込み、そこのところにメスを入れていることです。主人公のクルトが西ベルリンにある母方の祖父の墓参りに行くのを市会議長の父親が嫌がります。それは祖父がファシストの親衛隊員だったからです。黙祷に反対したエリックは父親が元共産党員でソ連信奉者と信じ込んでいるので、社会主義に忠誠を誓っているのです。


bokuresha-500-2.jpg19人のクラスメートは、何事もなければ、すんなりと卒業でき、大学進学が叶う国家の幹部候補生でした。将来は約束されていたのに、人生を左右する決断を強いられます。こんな事実があったなんて全く知らなかった。この体験者(劇中のクルト)が著した原作をラース・クラウメ監督が、高校の場所をポーランド国境のスターリンシュタット(「スターリンの町」、現在のアイゼンヒュッテンシュタット「製鉄所の町」)に移すなど一部脚色し、『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』(2016年)で見せた徹底取材に基づく濃密な演出で見事に映画化させています。


知られざる歴史が次々と暴かれてきています。それを映画というメディアを介しているのが何とも痛快です。ナチスの時代と東西冷戦の時代をドイツは今、改めて総括・検証しようとしているように思えます。翻って日本は……。原題は『静かな革命』。そうか、革命なんや! この方がしっくりきそうな気がしますね。


武部 好伸(エッセイスト)

公式サイト⇒ http://bokutachi-kibou-movie.com/

©2018 ZDF/ Logos: akzente, zero one, Studiocanal und Wunderwerk