原題 | Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot |
---|---|
制作年・国 | 2018年 アメリカ |
上映時間 | 1時間53分 |
監督 | ガス・ヴァン・サント |
出演 | ホアキン・フェニックス、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラック、マーク・ウィーバー、ウド・キア、キャリー・ブラウンスタイン、ベス・ディットー、キム・ゴードン他 |
公開日、上映劇場 | 2019年5月3日(祝・金)~ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸ほか全国順次ロードショー |
一夜にして半身不随になった男が、
右往左往しながら見い出した大切なこと
「辛い時、苦しい時こそ、笑うんだ」と言ってのける人もいるけれど、なかなかそう簡単にはいかない。あれこれ悩み、もだえ、他人や自分自身に当たり散らす、まあそれが凡人の当然の姿だろう。この映画の主人公であるジョン・キャラハンも、絶望の底に叩き落とされた時、あまりのショックと怒りと恐怖で、ほとんど自暴自棄となる。だが、彼は、生きることを諦めなかった。それを助けたのは、彼を支えようとした人たちと、彼がもともと持っていたであろうユーモアと皮肉のセンスだったといえる。
アメリカ・カリフォルニア。十代の頃からお酒の虜となり、自他とも認めるアルコール中毒者のキャラハン(ホアキン・フェニックス)は、あるパーティーで、やはり酒飲みのデクスター(ジャック・ブラック)と知り合う。パーティーをハシゴした後、泥酔状態のデクスターが運転する車に乗ったのが運の尽き。車は猛スピードで電柱に激突し、キャラハンは胸から下が麻痺した体となって病院のベッドに横たわっていた。この麻痺は治る見込みがないと医師に宣告されたキャラハンは…。
ガス・ヴァン・サント監督は、ホアキン・フェニックスの兄で夭折したリバー・フェニックスを起用した『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)で数々の受賞を果たし、どこかあどけなさも残っていたリバー・フェニックスの美形と今後を期待されるスターとしての煌めきをスクリーンに刻んだ。本作では、実在した風刺漫画家ジョン・キャラハンがたどった道をドラマティックに描きながら、役者としてのキャリアを積んできた弟ホアキンの実力を見る者に強く印象づける。
お酒に溺れることで深く沈み込んでゆく心の闇、不自由になった体への苛立ち、自分を捨てた実母に対するトラウマ。それらが絡み合って、キャラハンの心をギザギザにしてゆく。そんな彼に立ち直りのきっかけを与えたのが、断酒会の集まりであり、その会を率いていたドニー(ジョナ・ヒル)の存在と、セラピストとして出会った美女アヌー(ルーニー・マーラ)との恋だ。だが、そういう外部の要因だけでなく、私はキャラハンの素質=ユーモアと皮肉のパワーにも目を留めずにはいられない。
人は考え方で行動を決め、その行動が人生を変えてゆく。キャラハンは、ユーモアと皮肉の力を借りて風刺漫画家という仕事に目覚め、自分が受けた試練を逆手に取ることができた。さらに、事故を招いたともいえるデクスターを許し、どこかで生きているだろう実母を許し、どうしようもない部分を持っているアカンタレの自分自身を許すこともできた。事故は悲惨な出来事だったが、それがなければ、キャラハンはずるずるとアル中の道をほっつき歩き、もっと悲惨であったかもしれないと考えると、人生とは、人智の及ばないなんと不思議なものだろうか。
ちなみに、今は亡き俳優ロビン・ウィリアムズが、かつて本作の原題ともなっているジョン・キャラハンの自伝をもとにした映画化権を獲得し、その実現についてガス・ヴァン・サントに相談していたという裏話が伝わっている。生きていれば、彼が主役を務めていただろうが、想像する名優ロビン・ウィリアムズの演技と甲乙つけがたいホアキン・フェニックスの至芸である。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://www.dontworry-movie.com/
(C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC