原題 | BOY ERASED |
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制作年・国 | 2018年 アメリカ |
上映時間 | 115分 |
監督 | ジョエル・エドガートン |
出演 | ルーカス・ヘッジズ、ニコール・キッドマン、ジョエル・エドガートン、ラッセル・クロウ、グザヴィエ・ドラン他 |
公開日、上映劇場 | 2019年4月19日(金)~TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、シネ・リーブル神戸他全国ロードショー |
~我が子の真の姿を受け入れることは、こんなにも難しい〜
子どもが生まれた時は、どんな親でも自分の理想を子どもに重ね、そして我が子の幸せを望むだろう。だが、子どもはいつまでも親の思い通りにはならないことも事実だ。子どもは親の従属物ではなく、一つの独立した人格なのだから。それに気づかず、いつまでも親の自分が正しいと思い込み、それを子どもに押し付けるとすれば、まぎれもなく親によるパワハラだ。でも、それが周りから尊敬され、また慕われ、影響力のある親から子どもに対してなされるものであれば、往往にして見過ごされてしまう。
本作は、牧師一家に生まれた主人公が、青年期に自身が同性愛の傾向があることを自覚し、家族にカミングアウトしたことから、同性愛の矯正施設に入れられた実話を基にしたヒューマンドラマだ。様々な矯正施設があるアメリカだが、今の時代に同性愛を矯正する施設があるという事実だけでも衝撃を覚えるのに、カルト集団のような洗脳めいた内容、外部との接触を遮断するなど、そんな場所に子どもを預けていいはずがないという場所なのだ。ただ、そこに預けてまで同性愛を矯正しなければならないと真剣に考えるバックグラウンドこそ、多様性を尊重するアメリカのもう一つの姿なのだ。
大学時代に同性愛を自覚したジャレッドを演じるのは、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『スリー・ビルボード』等の話題作に出演、ドラッグ中毒矯正施設から飛び出してきた青年を演じる『ベン・イズ・バック』(ピーター・ヘッジズ監督)の日本公開が控えるルーカス・ヘッジズ。牧師一家で育った温厚で理想的な息子だからこそ、カミングアウトの後、父から心の底から変わりたいかと問われ、性自認の矯正を行う施設への入所を勧められると、父の意を受け入れてしまう。ラッセル・クロウが演じる牧師の父、マーシャルからすれば、同性愛という神に背く行為をした息子をなんとかして元に戻したい。それはマーシャルに影響を及ぼす周りの有力な長老たちからの進言でもあった。
二コール・キッドマン演じる母ナンシーに連れられジャレッドが入所した矯正施設では、外部との連絡を絶たれ、中で起こったことを一切外で話してはならない。ガラッド・コントリーの原作を元に描かれる施設での訓練模様は、ジョエル・エドガートン演じる教官の厳しい指導のもと、同性愛という自分の罪を認めさせるというもの。入所している若者たちは自分たちの性自認は変えられないことを分かっているが、口だけでも「同性愛が罪だ」と認めなければ退所できない。理屈ではなく、本能的に息子を守ろうとした母の行動は、時間が経ってでも息子の性自認を受け入れた証だ。一方、同性愛が神に背くと信じてきた父が、息子のありのままの姿を受け入れることができるのか。矯正施設の実態を描きつつも、その芯にあるのは親と子どもがいかにしてお互いを理解するかという普遍的な問題にたどり着く。その道は決して容易いものではないが、諦めなければいつかは開ける道かもしれない。男子に恋心を抱くようになるまでの学生時代も繊細に演じたルーカス・ヘッジズ。その透明感溢れる佇まいが、重いテーマを和らげてくれた。
(江口由美)
公式サイト⇒:http://www.boy-erased.jp/
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