原題 | Nos Batailles |
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制作年・国 | 2018年 ベルギー=フランス |
上映時間 | 98分 |
監督 | ギヨーム・セネズ |
出演 | ロマン・デュリス、ロール・カラミー、レティシア・ドッシュ、ルーシー・デュベイ他 |
公開日、上映劇場 | 2019年4月27日(土)~新宿武蔵野館、5月10日(金)〜シネ・リーブル梅田、5月11日(土)~京都シネマ、5月17日(金)〜シネ・リーブル神戸他全国順次公開 |
~パーフェクトではないからこそ、愛おしい。妻の不在で気づく家族の思い〜
仕事でも家庭でも、自分の役割をパーフェクトにこなせる人など、そうそういないだろう。特に小さい子どもがいる家庭では、フランスだとベビーシッターを利用して子育ての負担を軽減している家庭もあるだろうが、経済的に余裕のある場合でないとそれも難しい。そして子育てが妻にズシリとのしかかるのだけでなく、任せっきりになってしまったら・・・。突然のように見える妻の不在の意味は、相当重いのだ。『パパは奮闘中!』というちょっとポジティブなタイトルイメージとは一線を画す超リアルな父親奮闘記。主人公オリヴィエを演じるのは、『スパニッシュ・アパートメント』をはじめとするセドリック・クラビッシュ監督の青春三部作で、等身大の若者をユーモアたっぷりに演じたロマン・デュリス。長編2作目となるギヨーム・セネズ監督は、自らの経験も生かしながら、一方で現在の消費社会を露わに描く社会派作品に仕立て上げている。
オンライン販売の倉庫でチームリーダーとして働くオリヴィエは、リストラの手が伸びる部下たちのことを気にかけながら、遅く帰ってきては、朝食もそこそこに仕事に出かける仕事人間。妻のローラはブティックで働きながら、息子のエリオット、娘のローズの子育てを一人で抱えていた。ある日、学校から母親の迎えがこないと連絡が入る。ローラが行方不明になり、仕事どころではなくなったオリヴィエは慣れない家事や子どもたちの面倒をみるのに四苦八苦。ようやく届いたローラからのハガキも、ママの無事を喜ぶ子どもたちの目の前で破り捨ててしまう。精神的にも肉体的にも限界になっていたオリヴィエの事情を聞き、妹ベティ(レティシア・ドッシュ)が訪れ、子どもたちは少し明るさを取り戻すのだったが・・・。
オリヴィエの職場での様子と、家庭での様子が交互に映るが、戦場のような職場で闘い疲れた戦士のように、家での無気力さが際立つ。『若い女』のヒロインで大ブレイクしたレティシア・ドッシュが、俳優志願の妹として登場。子どもたちと同じ目線で楽しませ、落ち込んでいる兄を励ます様子はまさに映画の中でも輝きを放つ瞬間だ。しかし大事な舞台練習があるからと引き上げようとする妹ベティにオリヴィエが放つ言葉が、彼女を深く傷つける。この様子を見て、妻ローラがたまりかねた気持ちが分かる気がした。自分のしんどさを訴えるだけで、相手の立場や気持ちを考える余裕がオリヴィエにはないのだ。毎日シリアルばかり与えられる子どもたちも気の毒で、幼いローズはついに口を効かないハンストに突入。対話しようとする気持ちがなければ、オリヴィエは家庭で孤立するばかり。それは相手が子どもであっても同じことなのだ。
会社の労働組合専任の女性とのちょっとした息抜きや、最初は嫌々ながらも次第に子どもたちと一緒に通うようになった対話療法など、追い詰められたオリヴィエの行動に光が射すかと思いきや、リストラしていた女上司がクビになり、思わぬ人事を言い渡される。子育てと仕事の両立は本当に大変極まりないが、ローラが不在になってようやく気づいたことは、一人で抱え込むのではなく、家族に相談することで思わぬ活路が開けることもあるということ。状況は何も変わらないが、家族の心がようやく一つになったラストはささやかな希望を感じさせる。本作ではネットビジネスの仕分け倉庫の作業風景や、そこで働く人たちの使い捨てのような使われ方など、今まであまりフランス映画で描かれることのなかった現代の労働現場を映し出している。ロマン・デュリスの真に迫った演技が、過酷な労働事情の中で家族と向き合う父親の心情を見事に映し出していた。パーフェクトではないからこそ愛おしい、頑張る父親たちにエールを送りたい。
(江口由美)
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