原題 | 原題:The Bookshop |
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制作年・国 | 2017年 イギリス=スペイン=ドイツ |
上映時間 | 1時間52分 |
原作 | ペネロピ・フィッツジェラルド「The Bookshop」(ハーバーコリンズ・ジャパン刊) |
監督 | 監督・脚本:イザベル・コイシェ |
出演 | エミリー・モーティマー、ビル・ナイ、パトリシア・クラークソン(ナレーション:ジュリー・クリスティ) |
公開日、上映劇場 | 2019年3月29日(金)~シネ・リーブル梅田、3月30日(土)~京都シネマ、近日公開~元町映画館 |
~本への愛情を受け継いでいくことの尊さ~
1959年、イギリス東部の海辺の小さな町。本をこよなく愛するフローレンスは、戦死した夫の遺志を継いで、町で初めての本屋を開く。この町の人は誰も本なんて読まないと言われたり、地元の資産家ガマート夫人からは、店の建物を芸術センターにしたいと立ち退きを迫られるが、固い意思を貫いて開店にこぎつける。フローレンスのセンスのよい本選びで、店は好調なスタートを切るが、ガマート夫人は、議員の甥を使い、圧力をかけてくる…。
保守的な村の人々は次々とガマート夫人になびいていき、孤立するフローレンスにとって、唯一の味方は、40年間、ひきこもりを続けている読書家の老紳士ブランディッシュ。寡黙で、麟とした存在感を漂わせながらも、本について手紙を交換し、フローレンスと心を通わせていく。本を大切にする人は、人を敬い、人の心を踏みにじらない礼節を知っている。本を通じての人とのつながりがフローレンスの人生をさらに深め、本屋を続ける勇気を奮い起こす。
フローレンスを演じるエミリー・モーティマーの柔和で物静かな中に、芯の強さを感じさせる表情から目が離せない。言いたいことをこらえて、じっとかみしめる唇が印象的だ。全編からあふれるのは、本への愛情。陰影に富んだカメラにとらえられた、棚にぎっしり並んだ本は、本と出合う喜びを思い出させる。フローレンスが散歩したり、本を読む海岸も美しい。
権力は、庶民の夢を奪う。奇跡は起こらない。それでも、奪われないのは、こころの自由だ。本屋を手伝う少女が楽しそうに街を闊歩し、店に向かう姿が可愛らしい。フローレンスの本への思いが少女に受け継がれることに希望が残る。
現代社会においても、これと似た権力者との攻防が、あちこちで繰り広げられているにちがいない。そのとき、フローレンスのように勇気をもって行動できるだろうか。少女の大胆な行動がもたらすラストの光景を見たフローレンスの表情が忘れられない。
(伊藤 久美子)
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