原題 | DUNBO |
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制作年・国 | 2019年 アメリカ |
上映時間 | 1時間52分 |
監督 | 監督:ティム・バートン 脚本:アーレン・クルーガー |
出演 | コリン・ファレル、マイケル・キートン、ダニー・デヴィート、エヴァ・グリーン、アラン・アーキン |
公開日、上映劇場 | 2019年3月29日(金)~全国ロードショー |
~78年ぶりに実写で甦ったキュートな空飛ぶ小象~
ご存知ですか。陸上で最大の動物、それは象です。厳密に言えば、アフリカ象。アジア象もでっかいです。生まれたばかりの小象でも体重が優に100キロを超えています。重い、重い。抱っこなんてできません。そんな小象をウォルト・ディズニーが飛ばしちゃいました。戦時中の1941年に公開されたアニメ映画『ダンボ』。大きな耳を羽ばたかせて飛行させるという発想には驚かされます。
あれは確か小学校6年のときでした。今はなき梅田シネマで『ダンボ』を観ました。日本初公開がぼくの生まれた1954年だったので、2度目の封切り時(1967年)です。耳が大きいだけで、何でいじめられやなあかんねん。とくにダンボを邪険にするおばちゃん象たちがめちゃめちゃ憎たらしかったです。みな同じサーカスの仲間やのに、同じ象やのに……、ちゃんと守ったらんかい! 何だか腹が立ったのを覚えています。
その『ダンボ』が78年の歳月を経て実写映画で甦りました。担い手はぼくの大好きな監督、ティム・バートン。この人、『シザーハンズ』(89年)、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』(93年)、『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)などなど主人公はどれも一風変わったキャラクターばかりで、「化け物」呼ばわりもされていました。しかも、「世界で唯一」という尾ひれがついています。周囲から偏見と差別の眼差しを注がれながらも、健気に生きていく彼らにどこまでも寄り添う、そんな監督のスタンスにたまらなく惹かれてしまうのです。
ダンボもそう。明らかに異端児。だからティム・バートンが取り上げたのが本当によくわかります。本作もサーカスが舞台です。母親象のジャンボと離れ離れになったダンボが、周りのサポートによって再会を果たそうとする流れは変わりませんが、アニメは動物重視であったのに対し、今回は人間をメインにしていました。ドラマ性はこちらの方がはるかに勝っています。
第一次世界大戦終結1年後の1919年というのがミソ。曲馬芸の看板スターだったホルト(コリン・ファレル)が左腕をなくして戦地から帰還し、愛妻も病死していました。計り知れない喪失感を抱いた男がサーカスの団員として娘と息子とともに再生を図る姿を、ダンボの主筋とからませて描いているところが目新しい点です。
ダニー・デヴィートが団長を務める「メディチ・ブラザース・サーカス」、何ともファミリーな雰囲気が充満しています。どことなく時代に取り残されたイメージ。サーカスと言えば、幼いころ、悪さをすると、きまってオヤジさんから「サーカスに売ってまうぞ。酢を飲まされてな、体をグニョグニョにさせられ、ピョンピョン曲芸させられるんやぞ」と脅かされました。この言葉、ほんま、強烈に怖かった……。昨今のサーカスはしかし、そんな暗鬱なところは微塵もなく、すごく垢抜けしていますね。
汽車で地方を巡業するこのサーカス団とは対照的に、大都会ニューヨークにあるドリームランドは今風の巨大なテーマパーク。マイケル・キートン扮するオーナー(大興行師)の「不可能を可能にする」という理念のもと、何もかも近代的で管理されています。でも、どこか成金的。オーナーの小賢しさとクールさが際立っており、非常に居心地に悪い場所。このように対照的な2つの場所でダンボが超絶の演技を披露するわけです。
そのオーナーの愛人で、最初は鼻につく嫌な女性曲芸師コレット(エヴァ・グリーン)がダンボとホルトの親子に接するにつれ、心がまろやかになっていくところが実にええ塩梅。恐ろしい夜叉のような表情から母性愛に包まれた観音さんの顔へと変わってきますよ。最初はミスキャストと思ったけれど、エヴァ・グリーンでよかったです。
CGで制作されたダンボ、めちゃめちゃキュートです。耳だけでなく、目もでっかい! 英語の「dumbo」は「まぬけ、のろま」という意味です。これ、ディズニーのアニメによって造られた新語と知って、びっくりしました。どうしてこの名が生まれたのか、その決定的瞬間が映画の中で出てきます。しっかり見てください。それとアニメで評価された「躍るピンクの象」。それをバートンが実写ならではの手法とCG技術を活かし、見事に再現しています。不思議そうにそれを見入るダンボの何と可愛いこと!
オリジナルの世界を尊重し、21世紀のダンボを生み出したティム・バートンのお手並みは鮮やかです。母子の愛情の深さは言うに及ばず、「欲望は身を滅ぼす」という金言もちゃんと映像で見せ切っていました。スタンダード曲になっている『ベイビー・マイン』はぜひ〈耳をダンボ〉にして聴いてください。この言葉もアニメ『ダンボ』が由来です。
今ふと疑問が……。ダンボは小象だから飛べるのでしょうか? 成長したときどうなるのかな。彼はアジア象だから、体重が5トンくらいになります。それでも必死で耳をパタパタさせ、重々しく飛んだらオモロイですね。ぜひ観てみたいです。よっしゃ、この際、バートン監督にその後を追った『ダンボ2』を撮ってもらいましょう!
武部 好伸(エッセイスト)
公式サイト⇒ https://www.disney.co.jp/movie/dumbo.html
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