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『たちあがる女』

 
       

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作品データ
原題 Woman at war  
制作年・国 2018年 アイスランド・フランス・ウクライナ合作
上映時間 1時間41分
監督 ベネディクト・エルリングソン『馬々と人間たち』
出演 ハルドラ・ゲイルハルズドッティル『馬々と人間たち』、ヨハン・シグルズアルソン
公開日、上映劇場 2019年3月15日(金)~シネ・リーブル梅田、3月16日(土)~京都シネマ、4月26日(金)~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開

 

“山女”は荒野を走る!「自然の権利」を求めて――。
あっぱれアイスランド女性の痛快ヒューマン・コメディ!


「人権」と同様、自然にも権利があり、手つかずの自然を破壊するものへは断固抗議する!今日も“山女”は荒野を駆け抜け、送電線の破壊工作に励むが……。


tachiagaru-500-1.jpg世界で最も安全で男女平等指数が高い国、アイスランド。地球地溝帯(割れ目)が走る火山と氷河の島国で、人口より羊の数の方が多い牧畜と漁業が盛んな国である。そんな厳しくも恩恵をもたらす自然豊かなアイスランドを舞台に、自然を破壊する工場誘致政策に敢然と立ち向う、逞しくも優しいアラフィフ女性の心にくいほどの痛快作が登場!


長編初監督作『馬々と人間たち』で、アイスランド特有の野生馬と人間との関係を皮肉たっぷりに描いたベネディクト・エルリングソン監督の最新作は、地球を破壊し続ける人間社会への痛烈な批判を、ファンタジックな手法で人情とユーモアたっぷりに描いた傑作ヒューマン・コメディ。


tachiagaru-500-2.jpgふかふかの苔むす溶岩台地を駆け抜ける若くない女性。大きなアーチェリーを構え、狙うは巨大な送電線。その雄姿にまず度肝を抜かれる!かっこいい!!ワンダーウーマンかと思える逞しさだ。警察に追われ農夫の力を借りる時も、「自然破壊という犯罪を止めるために行動している!」と毅然とした態度で主張。彼女の名はハットラ(ハルドラ・ゲイルハルズドッティル)、別名“山女”。セミプロ合唱団の指導者でありながら、密かにテロ活動をする自然保護活動家である。


tachiagaru-500-3.jpgそんなハットラの元にある知らせが届く。4年前に申請した養子縁組がようやく叶えられるというのである。ウクライナの4歳の女の子で、両親は紛争で死亡、その後死亡した祖母の傍で発見された“小さな英雄”だという。可憐な白い花を持ってカメラを見上げるその目は、寄る辺ない自らの運命を知る由もなく、実にはかなげだ。「私に似ている。私が引き取らなければ!」と決心したハットラは、ヨガ講師をしている双子の姉に会いに行き養子縁組のことを話す。母として生きようとするハットラを優しく応援する姉。そこで、母になる前に最終決戦を計画。外国資本を取り込もうと工場誘致を目論む政策への対抗措置として、工場への送電線の完全破壊に挑むが……。


tachiagaru-500-5.jpgアイスランドは目まぐるしく変わる天候のため夏でも零下になることがあるらしい。そんな曇天の多い国なのに、全編青空と白い雲を背景にした自然光景が実に美しい。そこに、アイスランド伝統のロピセーター(襟周りに雪結晶柄のあるもの)を着たハットラが毅然と立つ。彼女が行動を起こす時には必ず3人のバンドが背後に立ち、彼女の心象を語るように演奏する。ウクライナから養女を迎える決心をしてからは、3人のウクライナ民族コーラスが加わる。アキ・カウリスマキ監督作のような、すっとぼけた楽隊の付け方が実にユニークで可笑しい!


tachiagaru-500-8.jpg過激な自然保護活動や政府への抗議活動、さらには警察からの逃走劇と、本来ならシリアスになりがちな物語。だが、本作が軽妙なコメディタッチの痛快さで魅了するのは、全編に散りばめられたユーモアと頑なな心を溶かす音楽に拠るところが大きいだろう。さらに、登場人物のキャラクターも愛おしいほどユニークなのだ。


tachiagaru-500-4.jpg50歳になろうかというハットラは長身でがっしりとした体格で、ものおじしない知的なお顔立ち。ハットラを演じたハルドラ・ゲイルハルズドッティルは、アイスランドの演劇界では男役のコメディからシリアスものまでこなす人気女優だそうだ。ハットラが自転車に乗ってレイキャビクの街中を疾走するシーンが爽快。確固たる信念をもって行動する女性の美しさが滲み出ている。ガンジーやマンデラを信奉するハットラが、マンデラのお面を着けて最終決戦に挑む姿も勇ましい。ウクライナの4歳の女の子の写真を見て、「自分に似ている」と感じた表情が、ラストの力強さに繋がって感動を呼ぶ。


tachiagaru-500-9.jpgそして、脇役の登場のさせ方が巧い!ハットラの過激な行動の先々には、なぜか外国人のサイクリストが通りかかる。その怪しさからいつも彼女の身代わりとして警察に捕まってしまう。『馬々と人間たち』でもアイスランド観光に来た外国人を登場させていたが、アイスランド人の滑稽さを浮かび上がらせるために客観的な視点を取り入れているようにも思える。


tachiagaru-500-7.jpg賢いワンコを従えた一見怖そうな農夫の存在がまたいい。農夫が住む村にルーツを持つハットラとは、彼女の“発展家”の祖父のために血縁かも知れない“いとこもどき”として登場させる。いかつい顔の農夫だが、孤独な闘いで傷ついたハットラを抱きかかえて露天風呂に入れるシーンでは、愛情深い頼もしさを感じさせる。厳しい自然を相手に生きる農夫にとっても、ハットラは英雄なのである。


tachiagaru-pos.jpgそして、英雄から母の顔になったハットラに更なる試練が待ち構えていた――その後日談にこそ、アイスランドから闘いに挑むアラフィフ女性の人間性が明らかにされ、人類愛こそが地球を救うことに繋がるのではないかと、静かに訴えかけているようだ。男も女も等しく働かなければ生き抜いて来られなかったアイスランドの人々。その歴史と文化に基づいた、ヒューマニズムあふれる地球讃歌の作品に、皆さんも露天風呂に入るつもりで、どっぷりと浸かってみて下さい。きっと元気になれるはず!


(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://www.transformer.co.jp/m/tachiagaru/

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