映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『希望の灯り』

 
       

kibounoakari-550.jpg

       
作品データ
原題 原題:In den Gängen/英題:In the Aisles  
制作年・国 2018年 ドイツ
上映時間 2時間5分
原作 原作・脚本:クレメンス・マイヤー(「通路にて」新潮クレスト・ブックス『夜と灯りと』所収<品切>)
監督 監督・脚本:トーマス・ステューバー
出演 フランツ・ロゴフスキ『ハッピーエンド』『未来を乗り換えた男』、ザンドラ・ヒュラー『ありがとう、トニ・エルドマン』、ペーター・クルト
公開日、上映劇場 2019年4月26日(金)~シネ・リーブル梅田、 4月27日(土)~京都シネマ、 近日~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開

 

巨大スーパーの棚越し、ひそやかに綴られる叙情。

 

人生を立て直そうとしている孤独な青年。夫婦生活に問題を抱える女性、時代の波に取り残された初老の男。ありふれた日々を繰り返しではなく積み重ねて、平凡な人生の忘れがたい断片を切り取る。名もなき老若男女の人生模様に、寄り添うようなトーマス・ステューバー監督の視線の先に広がる新しい夜明けは、ひどく心に沁みる。

 

kibounoakari-500-1.jpg

旧東ドイツ、ブルーブラックの静かな夜明けとともに、一日の終りを迎えた人々がいる。ベルリンの壁が崩壊し、終わりの始まりに立ち会ったのだけれど、それ以前よりどれほど人生は良くなったのか、ブルーノ(ペーター・クルト)にはわからない。かつてはトラックを、いまは巨大スーパーマーケットでフォークリフトを転がす身。トイレで煙草を吸ったり、社員用売店担当とチェスに興じたり、それなりに1日をやり過ごしてる。そんな初老の男が、無口でちょっと不器用な青年クリスティアン(「未来を乗り換えた男」のフランツ・ロゴフスキ)の指導を任されることになる。

 

kibounoakari-500-2.jpg

親子ほど年の離れたブルーノに仕事を教わるクリスティアン。ユニフォームからはみだし気味のタトゥーが客の目に触れないようにと忠告されるが、ブルーノはことさら詮索しない。やっと得たまともなこの仕事を、なんとかものにしなければならない青年にとって、時折、独り言のように東西再統一以前の暮らしぶりを語るブルーノの真意など汲み取れるはずはない。いや、そもそも人間は、自分のこともわかっていないような生き物だから、他人の気持ちを推し量ろうにも無理があるというもの。

 

kibounoakari-500-4.jpg

同僚の人妻マリオン(「ありがとう、トニ・エルドマン」のザンドラ・ヒュラー)にひと目ぼれしたクリスティアン。まだ半人前なのに、しかも人妻に惚れるなんてとたしなめられそうだが、ブルーノはただ見守ってくれる。彼の優しさは、クリスティアンがこれまで知ることのなかった人生の温もりを感じさせたのではないかと思う。他人の欠点を非難しない。恋も仕事も励ましてくれる。そんなブルーノの受容力というか人間性に、自分の不出来さを痛感させられた私は、居心地の悪さのようなものを感じてしまったのだけれど、終盤、その優しさの理由が明らかになり、なんともやるせなかった。

 

kibounoakari-500-3.jpg

思うようにいかない一日がある。今日が終われば、また新しい今日が始まるのだろうけれど、だからといってわけもなく「なんとかなるさ」と自分に嘘をつく理由はもう、見当たらない。生きていれば、たいていの日々はそういう繰り返し…だとしても。


(柳 博子:映画ライター)

公式サイト⇒http://kibou-akari.ayapro.ne.jp/

© 2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH