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『THE GUILTY/ギルティ』

 
       

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作品データ
原題 Den skyldige  
制作年・国 2018年 デンマーク
上映時間 1時間28分
監督 グフタス・モーラー
出演 ヤコブ・セーダーグレン、イェシカ・ディナウエ、ヨハン・オルセン、オマール・シャガウィー
公開日、上映劇場 2019年2月22日(金)~シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、T・ジョイ京都、シネ・リーブル神戸 他全国ロードショー

 

視覚的な情報を遮断したワンシチュエーション・サスペンス。

想像力をフル稼働させられる北欧ミステリー。

 

昼夜を問わない警察への通報は、緊急性のあるものばかりとは限らない。通報者がどのような状況にあるのか、そもそも話の内容が真実なのかどうかも「声」からだけでは判断しきれない。だが112番・緊急通報司令室で、市民の助けを求める声に対応するオペレーターたちにできるのは、捜査の最前線にいる警官、刑事に情報を委ねることだけなのだ。


guilty-500-1.jpgサンダンス映画祭観客賞を始め、世界中の映画祭で観客から熱狂的な支持を集めたデンマークのグスタフ・モーラー監督の初長編は、緊急通報司令室を舞台にした完全密室によるワンシチュエーション・サスペンス。電話だけ、つまり声のやりとりだけで演出した緊迫劇だ。


緊急通報司令室で対応に追われる男アスガー(ヤコブ・セーダーグレン)は、周囲から浮いた存在だ。俺はお前たちとは違うと言わんばかり、警官服姿で威圧する。そんなアスガーが、現場復帰のため致し方なしに甘んじていた「電話番」勤務からようやく解放される前日、拉致された車の中から助けを求める女性の通報を受ける。この1本の電話が、事件の当事者たちばかりか、アスガーのその後の人生さえも変えてしまうことになる。果たして彼に、無辜の市民を救うことができるのか。真に救いを求めている者の声にならない叫びに、アスガーはどう応えるのか…。


guilty-500-2.jpg管轄署の手順通りの捜査に業を煮やし、所属署に協力を求めるも上司に一蹴されたアスガーは極秘裏に、緊急司令室の一角で捜査を開始する。拉致された女性宅で置き去りにされた幼い娘とコンタクトをとり、犯人が被害女性の夫であると断定。だが、いまはまだ処分を待つ身の彼が現場へ向かうことなどできない。女性を乗せた車はどこへ向かおうとしているのか…。電話を通じて、懸命に夫への説得を試みるが、事態は刻一刻と悪化していく。助けを求める市民を救えない己の無力感よりも、捜査にあたっている者たちの無能さが腹立たしく、ジレンマを深めるばかり。ところが、女性宅に到着した管轄署の警官からもたらされた情報は、アスガーの「勘」の盲点を突いた衝撃の事実だった。


guilty-500-3.jpg通話の度に新たな局面、場面展開をイメージ喚起させる「声と音」、観客の想像力を掻き立てる会話劇の妙。アスガーの困惑、焦燥、不条理感そして恐怖をリアルタイムで共有するにつれ、観る者の心拍数は否が応でも高まる。一方、予断を許さない誘拐事件のさなか、徐々に明らかになるアスガーの人間性。ある通報者の男性を自業自得と取り合わない彼自身、利己的な気質のせいで仕事も私生活も瀬戸際に追い込まれている。それも自業自得というものだが…。


取り返しのつかない過ちを犯した現実から、目を背けてしまう自分の弱さに苦しむ主人公の葛藤を知った時、いよいよこの物語は思いがけない顔をのぞかせる。愕然とするラスト、思わず息を呑む。


(柳 博子:映画ライター)

公式サイト⇒ http://guilty-movie.jp/

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