制作年・国 | 2018年 日本 |
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上映時間 | 1時間51分 |
監督 | 照屋年之 |
出演 | 奥田瑛二、筒井道隆、水崎綾女、大島蓉子、坂本あきら、鈴木Q太郎、筒井真理子、山城智二、前原エリ、普久原明、城間祐司、福田加奈子、古謝美佐子他 |
公開日、上映劇場 | 2019年2月9日(土)~丸の内TOEI、大阪ステーションシティシネマ、T・ジョイ京都、109シネマズHAT神戸ほか全国ロードショー |
~死者を弔う特別な風習を軸に、壊れかけた家族のきずなを結ぶ~
洗骨とは、亡くなった人を風葬または土葬した後、数年後に棺の蓋を開けて骨を取り出して洗い、再び埋葬するという風習で、世界各地で見られるが、沖縄の一部離島にも残っているのだそう。何だか恐ろしいような気さえするが、骨を洗うことで死靈が浄化され、子孫に幸福と豊穣をもたらす祖霊になるといわれている。照屋年之監督は沖縄出身、ガレッジセールのゴリという名前のほうが広く知られているが、コツコツと短編映画を撮ってきて、本作で一気に花開いたといっていいのではないか。笑いと哀しみと、思うにならぬ人生への苛立ち、それでも光のほうを見つめたいという心の底にある願い。そういったものを家族という枠組からきめ細かく描いてみせた。
沖縄の那覇市より北西約60kmに位置する離島・粟国島(あぐにじま)が舞台。新城家では母の恵美子(筒井真理子)が亡くなり、東京で所帯を持つ長男の剛(筒井道隆)、名古屋で美容師として働いている長女の優子(水崎綾女)も帰ってきて、無事に葬儀を済ませた。だが、一家の大黒柱たる父の信綱(奥田瑛二)は、妻が亡くなったことを受け入れられず、やめると言っていたはずの酒の中に逃避し、剛から非難の目を向けられている。それから4年の月日が流れ、洗骨の儀式のために、再び家族が集まるのだが…。
なぜ優子は大きなお腹を抱えた姿と不幸せな顔つきで帰郷したのか。なぜ剛は今回も妻子を伴っていないのか。なぜ信綱は酒を手放せず、虚ろな生を生きているのか。それぞれの事情がゆっくりと明らかにされてゆく。家族だといっても、理解し合えない澱みのようなものがそれぞれの胸に巣食っていて、それが感情をぶつけ合う契機となる。あるがままを見つめ、受け入れるということはとても難しいことなのだ。
だが、洗骨という特別な儀式に向けて、家族は少しずつ寄り添っていく。変わり果てた恵美子の姿と対面し、家族が揃ってその骨を一つずつ洗う。その儀式の中にひそむ“晴れやかさ”に驚いた。そうだ、お墓参りをして、皆できれいにお墓を整えて合掌した後の、あの晴れやかさと同じ。たぶん、故人の骨を洗いながら、各人は自分の心も洗っていたのではないか。そして、この家族にとって、天からの贈り物ともいえるハプニングが、彼らを祝福するように訪れるのだ。
かつてこれほど頼りなくカッコ悪い男を奥田瑛二が演じたことはないだろう。救い難いヘロヘロ親父なのだが、そこには救い難い哀しみが漂っていることに気づかされる。また、大島蓉子が演じた信綱の姉・信子伯母さんのキャラがイイ!落ち込んでいても悲しくても、こういう人がそばにいれば、きっと何とかなるという芯の明るさを発している。さらに、ネーネーズの元リーダー・古謝美佐子による情感豊かな主題歌『童神』が流れるとともに、彼女自身も商店のおばさん役で登場しているので要チェック。映画『ナビィの恋』でもロケ地となった粟国島の、のんびりとした自然美もいいなあ。本作は、ニューヨークで開催された北米最大の日本映画祭第12回JAPAN CUTSで観客賞に輝いた。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://senkotsu-movie.com/
(C)『洗骨』製作委員会