原題 | 原題:Les filles du soleil(英題:Girls of the Sun) |
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制作年・国 | 2018 年 フランス・ベルギー・ジョージア・スイス合作 |
上映時間 | 1時間51分 |
監督 | 監督・脚本:エヴァ・ウッソン 『青い欲動』 |
出演 | ゴルシフテ・ファラハニ(『彼女が消えた浜辺』『パターソン』)、エマニュエル・ベルコ(『太陽のめざめ』(監督)、『モン・ロア 愛を巡るそれぞれの理由』) |
公開日、上映劇場 | 2019年1月19日(土)~テアトル梅田、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹 他全国ロードショー |
家族を奪われ、人間としての尊厳を奪われた女たちの戦い
その姿は痛ましいほど気高く、悲しいほど慈悲深い
男たちが始めた戦いで、いつも犠牲になるのは女子供だ。人間がこの地球上に存在する限り、悲劇の連鎖は永遠に続くのだろうか――。紛争地域のニュースを様々なメディアで見聞きしていても、平和な日本にいるとその実感はわきにくく、ましてやそこに暮らす人々の心情を思いやるには至らないことが多い。そう、この映画を観るまでは……。
2018年ノーベル平和賞を受賞したナディム・ムラドさんによって、IS(イスラミックステート)の残虐行為がまた明らかにされ、世界にその目を向けさせた。ムラドさんは、ISの襲撃により家族を奪われ、拉致された上に性奴隷にされた経験から、今なお行方不明の女性や少年兵にされた子供たちを救うために闘い続けている。ISによって人間としての尊厳を根底から奪われた女性たちの叫びが世界に響き渡った。
本作は、2014年8月3日、イラク北部のシンジャル山岳地帯に住むヤズディ教徒がISに襲撃された事件を基に作られている。紛争地域の現状を取材し情報発信をしている女性ジャーナリストの目を通じて、ISに全てを奪われ、性奴隷にされ、何度も奴隷市場に出されながらも脱走して、今度は女兵士として再びISに相まみえる主人公の、愛と勇気と感動の物語である。
シリア・トルコ・イラク国境付近のクルド人解放軍の元に、黒い眼帯を着けたフランス人女性のジャーナリストがやって来る。同じジャーナリストの夫を紛争地域で亡くしたばかりのマチルド(エマニュエル・ベルコ)は、その悲しみの癒えぬまま幼い娘を故郷に残して再び紛争地域にやってきた。そこでバハール(ゴルシフテ・ファラハニ)という女性だけの部隊を組織するリーダーと出会う。寡黙で美しいバハールに興味を持ったマチルドは、彼女の心の奥にある何かに自分と同じ悲しみを感じ取る。なぜバハールは女兵士として前線に立っているのか――。
バハールは、優しい夫と可愛い息子に恵まれ、女性弁護士として平穏に暮らしていた。妹の婚約祝いのため故郷の戻っていた時にISの襲撃を受け、瞬く間に夫も親兄弟も親族の男性たち全員が殺され、幼い息子共々拉致されてしまう。その容赦ない殺戮に震撼し、さらにその後の地獄の日々には絶句してしまう有様だ。息子と引き離され、性奴隷にされた日に妹はその屈辱に耐えかねて自殺してしまう。次々と家族を奪われ絶望するバハールだったが、息子との再会を信じて生き抜く決意をする。
その後も何度か奴隷市場で売り買いされたバハールは、同じ境遇の女たちと共に囚われの日々を送っていたが、ある日、テレビで人権団体の女性リーダーが「必ず救出する!」という呼び掛けを目にする。それからというもの、手に汗握る決死の脱出劇と、最愛の息子奪還に燃える強靭な戦闘員として生まれ変わったバハールの、激動の日々に目が離せなくなる。マチルドが見た“バハールの涙”の意味するものとは?
今なおISとの戦いは続いている。今年に入ってアメリカ軍が一部撤退しているニュースが流れたが、クルド人を巡って周辺国を巻き込む問題は山積しており、ISが去った地域でも、政府軍と反政府軍や民族解放軍などと尚一層複雑化している。その隙を突いて、再びISのような残虐集団が台頭するかもしれない。中でも、バハールのようなヤズディ教徒は、独自の宗教と文化を堅持し続けて、他のイスラム教徒からも疎外されてきた歴史がある。拉致された女性たちが無事に戻れたとしても、妊娠させられた場合、その子供は決して受け入れられず、女性たちの悲しみが癒えることはないのだ。
“バハールの涙”は、女なら誰しもが背負う宿命の涙であり、決して遠い世界のことではない。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://bahar-movie.com/
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