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『マチルダ 禁断の恋』

 
       

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作品データ
原題 Mathilde  
制作年・国 2017年 ロシア
上映時間 1時間48分
監督 アレクセイ・ウチーチェリ
出演 ラース・アイディンガー(『ブルーム・オブ・イエスタディ』、『パーソナル・ショッパー』)、ミハリナ・オルシャンスカ(『ゆれる人魚』ヒトラーと戦った22日間』)、ダニーラ・ゴズロフスキー、ルイーゼ・ボルフラム 、インゲボルガ・ダプクナイテ
公開日、上映劇場 2018年12月8日(土)~シネ・リーブル梅田、T・ジョイ京都、シネ・リーブル神戸 他全国ロードショー!

 

ロマノフ王朝最後の皇帝・ニコライ2世が愛したバレリーナ、
マチルダとの豪華すぎる背徳の日々

 

またまたロシアが本気出して作った絢爛豪華な歴史大作がやってきた!

先月公開された『アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語』もそうだが、CGだらけの歴史劇と違って、サンクトペテルブルグやモスクワにある歴史的宮殿や教会や大劇場などで撮影を敢行し、美術、衣装に関しても本物が持つ重厚さが違う。そして今回は、ロシアが世界に最も誇れるバレエが存分に盛り込まれているから、華やかさが違う。19世紀末のロシアバレエ界という、クラシックバレエの殿堂であるマリインスキー劇場が舞台になっているのも貴重で、バレエ・ファンならずとも必見の作品である。


mathilde-500-8.jpgニコライ2世(186~1918)は、帝政ロシア、ロマノフ王朝最後の皇帝で、ロシア正教では「聖人」とされているらしい。そのような皇帝のスキャンダルを描いた本作に抗議して、ウチーチェリ監督のスタジオや映画館や監督の弁護士の車などが放火されたり、プレミア上映が中止になったり、さらに上映館が当初予定より大幅に縮小されたりと、内容とは関係ないところでセンセーショナルな話題作となってしまった。


mathilde-500-11.jpg本作は、サンクトペテルブルグを舞台に、ニコライ2世(通称ニッキー)がマチルダとの出会いから帝位に就いて別れるまでの2年間(1892~1894)を描いている。タイトルは『マチルダ』となっているが、イギリスのヴィクトリア女王の孫娘にあたるドイツのヘッセン大公女アレクサンドラ(通称アレックス)という婚約者と、マリインスキー劇場のバレリーナ、マチルダとの狭間で恋愛に身を焦がし、帝位を捨ててまでもマチルダとの愛を貫こうとした若き日のニコライ2世の情熱と葛藤が主テーマとなっている。ロシア映画界総力をあげて完成させた文字通り絢爛豪華で壮大なラブ・ストーリーである。

mathilde-500-9.jpg冒頭、皇帝列車の事故でまず度肝を抜く。ニコライ2世の父親アレクサンドル3世が身を挺して家族を守る救出劇に、偉大な父親像が印象付けられる。広大なロシア帝国を堅持する皇帝に、ひ弱なニコライ2世がある種のコンプレックスを抱いていたのも理解できる。その後、マリインスキー劇場のバレエ公演時ハプニング(!?)が起こって、マチルダ・クシェシンスカヤに魅了される。彼女の当時の写真を見ても絶世の美女である。今のバレリーナと違ってかなり豊満でずんぐりはしているものの、多くの男性が虜になるのもうなずける美貌だ。そもそも、ニコライ2世にマチルダを薦めたのは父親だったのだ。

mathilde-500-6.jpg先にマチルダに好意を抱いていた従弟のアンドレイを差し置いたり、マチルダにストーカー行為を働いていた兵士ヴォロンツォフを捕えたり、フィアンセのアレックスの心配をよそになりふり構わずマチルダとの背徳の恋に溺れていくニコライ2世。嫉妬や陰謀が渦巻くバレエ団の中で、マチルダもまた人生を賭けてバレエに励んでいた。中でも、32回転のフェッテ(『白鳥の湖』で黒鳥の見せ場の一つである高速回転)ができるライバルのピエリーナ・レニャーニとの熾烈なトップ争いは見ものだ。

 

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それにしても、ニコライ2世は、マチルダと離別してから24年後ロシア革命が起こり、一家(妻と娘4人と息子1人)7人で惨殺の憂き目に遭っている。もしマチルダと結婚して平民になっていたら、とその悲運が悔やまれるが、一方、マチルダの方は、ニコライ2世と別れてから、アンドレイ・ウラジーミロヴィチとセルゲイ・ミハイロヴィッチという二人の大公の愛人となって財を為し、どちらかの息子を産んでいる(真偽は不明)。革命後、セルゲイは処刑されたが、アンドレイとフランスに亡命し、99歳まで伝説のバレリーナとして生きたというから、ニコライ2世とは対照的な人生を送ったことになる。


mathilde-500-7.jpgニコライ2世は、大国ロシアを統治する偉大な皇帝の後継者としては優しすぎる性格が災いしたのか、その後勃発した日露戦争での敗戦や第一次世界大戦での劣勢からロシア革命が起こり、帝政の終焉を迎える。国内の窮状や国民感情に配慮することなく、皇后アレックスが盲信する怪僧ラスプーチンの台頭を許してしまい、国民の反感を買ってしまったのだ。この辺りの事情については、『ニコライとアレクサンドラ』(1971年)という映画をご覧頂けるとより分かりやすいでしょう。


(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://www.synca.jp/mathilde/

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