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『ファースト・マン』

 
       

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作品データ
原題 FIRSTMAN  
制作年・国 2018年・アメリカ
上映時間 2時間21分
原作 ジェイムズ・R・ハンセン著 「ファースト・マン ニール・アームストロングの人生」(河出書房新社)
監督 監督:デイミアン・チャゼル  脚本:ジョシュ・シンガー  製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、アダム・メリムズ、ジョシュ・シンガー
出演 ライアン・ゴズリング、クレア・フォイ、ジェイソン・クラーク、カイル・チャンドラー、コリー・ストール、キアラン・ハインズ、パトリック・フュジット、ルーカス・ハース
公開日、上映劇場 2019年2月8日(金)~TOHOシネマズ 梅田 他全国ロードショー

 

384,400㎞を旅し、真の意味で家族のもとに帰り着く。

アメリカの悲願、人類の夢を、実現させた男の魂の軌跡。

 

「ラ・ラ・ランド」でアカデミー賞を席巻したデイミアン・チャゼル監督が、再びライアン・ゴズリングと組んで挑んだのは、1969年、アポロ11号船長ニール・アームストロングが、人類史上初の月面着陸を達成するまでの約10年におよぶ物語。貧困、人種差別、ベトナム戦争…ケネディ暗殺に始まり、キング牧師暗殺で終焉を迎えた激動の60年代アメリカをその背景に映している。


firstman-500-3.jpg音楽を格闘技のように描いた青春映画「セッション」、カメラワークが話題を呼んだ極上のミユージカル「ラ・ラ・ランド」からは、まったく想像もできない題材。と言っても、チャゼル監督が長年温めていた企画だったそうだ。伝記「ファースト・マン ニール・アームストロングの人生」を原作とした脚本は、「スポットライト 世紀のスクープ」でアカデミー賞を受賞したジョシュ・シンガーに委ねたものの、ジャスティン・ハーウィッツの音楽を始め、編集、衣装も前作のチームが手掛けていて、チャゼル監督らしさは随所に見て取れる。というか、驚くほど素晴らしい出来栄えだった。


firstman-500-1.jpg戦後、空軍のテストパイロットとなったニール(ライアン・ゴズリング)。幼い娘カレンを病気で亡くした彼は、喪失感を平静さで取り繕い、仕事に打ち込もうとする。けれど妻(クレア・フォイ)や息子さえ遠ざけ、ひとり涙するニールには、孤独の重さも感じられなくなっていった。


firstman-500-2.jpg宇宙計画では、ソ連に遅れをとってしまったアメリカ。NASAは、国家の威信をかけたジェミニ計画完遂を急ぐあまり、国益ばかりか人的資源でも犠牲を払っていた。そんななか、宇宙飛行士に採用されたニール。過酷な飛行訓練で肉体を酷使する間は、喪失の痛みを感じずにいられるのだった。


firstman-500-4.jpgたったひとり、夜空に浮かぶ月を見上げるニールの姿が印象的だ。純粋な憧れを抱いて見つめているようにも映るが、美しい輝きで地上を照らす月を相手に、亡き娘への思いを語っているようにも思えなくもない。大切なひとを亡くした時、その喪失感を人間はどうやって受け入れ乗り越えていくのか…。悲しみを共有する家族だからといっても、同じ呼吸で再生できるのでも、生きているわけでもない。


firstman-500-5.jpg35ミリ、16ミリを使い分け、重層的に描いた深遠な人間ドラマ。アポロに同乗しているかのような映像世界への没入感の転換点とも言うべきが、“心の宇宙”をさまよっていたニールが1歩を踏み出す月面シーンだ。IMAXの65ミリ(現時点で最大のフォーマット)による月面の映像がフルサイズでスクリーンに映し出されると、まるで月に降り立ったような感覚が心に満ちていく。息をのむ静寂に包まれた映像体験の余韻は、妻との再会シーンで深まる。いっそう感動を覚えた、至高の瞬間だった。


(柳 博子:映画ライター)

公式サイト⇒ http://firstman.jp

©Universal Pictures