原題 | Anna・Karenina.Vronsky’s Story |
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制作年・国 | 2017年 ロシア |
上映時間 | 2時間18分 |
原作 | レフ・トルストイ+ヴィケーンチイ・ヴェレサーエフ |
監督 | 製作・監督:カレン・シャフナザーロフ 脚本:カレン・シャフナザーロフ/アレクセイ・ブジン |
出演 | エリザベータ・ボヤルスカヤ、マクシム・マトヴェーエフ、ヴィタリー・キシュチェンコ、キリール・グレベンシチコフ |
公開日、上映劇場 | 2018年11月10日(土)~シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、11月17日(土)~京都シネマ ほか全国順次公開 |
受賞歴 | ゴールデン・イーグル賞2018最優秀美術賞受賞、ロシア映画批評家協会賞2017最優秀音楽賞受賞 |
さすがロシア!近年まれに見ぬ重厚さで圧倒する文芸大作
ヴロンスキーが語る新たなアンナ・カレーニナ像に驚嘆!?
帝政時代の文豪レフ・トルストイの代表作「アンナ・カレーニナ」は何度も映画化され、舞台やバレエなどでも演じられてきた。我が家も「アンナ・カレーニナ」の映画とバレエのDVDが8枚もある。政府高官の妻アンナと青年将校ヴロンスキーとの悲劇をたどる不倫物語は、ロマンスの果ての不幸な結末というだけでなく、愛し合う歓び、生きる意味、信仰心や社会の中で生きる姿勢を問う、時代を超えた普遍性が込められている。そのロシアが誇る名作を、不倫相手のヴロンスキーから見たアンナ・カレーニナという、新たな視点で制作されたのが本作である。
「ロシアが本気出せば、こんな文芸大作ができるんだ~!」と感嘆の声をあげたくなるような風格ある本作は、ソ連時代から名作を生み続けてきたモスフィルが製作し、『蒼ざめた馬』(2004)や『ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の砲火』(2012)のカレン・シャフナザーロフが監督・脚本を務めている。豪華絢爛の舞踏会やオペラ劇場でのシーンや大迫力の競馬シーンなど、重厚な映像と深い人物像の掘り下げ方は、いくら製作費をかけても真似のできるものではない。ロシアの歴史と伝統に基づいた風格こそ、本作の大きな特徴と言えよう。
映画は、アンナが鉄道自殺してから30年後の日露戦争中の満州から始まる。日本軍の猛攻で劣勢状態の戦場にて、従軍医師として働いていたアンナの遺児セルゲイは負傷したヴロンスキー大尉と出会う。母を奪った憎きヴロンスキーだったが、父親や周囲から聞かされてきた不貞の母親像とは別に、ヴロンスキーの口から母アンナのことを聞き出そうとする。未だにアンナの残像を引きずりながら生きているヴロンスキーは、心の重荷を少しずつ下ろすように過去を遡っていく。
政府高官アレクセイ・カレーニンの妻アンナ・カレーニナは、モスクワの駅で青年将校のアレクセイ・ヴロンスキー伯爵と出会う。一目で美しいアンナに魅了されたヴロンスキーは、その後も人妻アンナを執拗に追い求め、次第に逢引きを重ねるようになる。二人の噂は夫カレーニンの耳にも入り、人目もはばからずヴロンスキーへの感情を露わにするアンナをたしなめるが、もう元には戻れぬ状態になってしまう。
離婚を希望するアンナに、世間体を気にする夫は絶対に承知しない。不倫の二人を世間も許さず、社交界からも拒絶されてしまう。最愛の息子セルゲイに会えない寂しさ、世間の冷たい仕打ち、愛し合っているはずのヴロンスキーへの不信、アンナの心は次第に壊れていく……。
本作では、虚飾に満ちた都会の貴族社会で不幸な結末を迎えるアンナとヴロンスキーとは対照的な、地方の農村で誠実な生き方を選んで幸せになったリョーヴィンとキティの二人は登場しない。二人はアンナの親戚筋の人物ということもあり、ヴロンスキーが語る物語では割愛されている。
愛を求めすぎて自制できなくなるアンナを、エリザベータ・ボヤルスカヤが自分の気持ちに正直に生きる強い意志を持った女性として現代的に演じている。その反面、脆く壊れやすい繊細さで大きな見せ場を作ったのが、ヴロンスキーを追って駅に向かう馬車の中でのシーンだ。「愛」を失う不安に耐えきれず、次第に狂気じみていくアンナを鬼気迫る演技で圧倒。一方、過去の作品の中でも最も風体のいいヴロンスキーを演じたマクシム・マトヴェーエフとはプライベートでも夫婦らしい。それ故か、二人の危険なほどの情熱で迫る衝撃作に、最後まで目が離せなくなる。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://anna2017.com/
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