三ツ星の隠し味は「魂（ＳＯＵＬ）」
料理という世界共通の言語で幸せを共有したい

原題に「ＳＯＵＬ」とあるように、ミシュラン三ツ星を獲得するような料理店は、料理の素材・技術・センスだけでは足りず、料理人の魂が必要だという。最近、スペイン料理のイメージを一新するようなミシュラン三ツ星レストランが次々と東京に進出している。そのスペイン料理界が熱い視線を向ける世界文化遺産である日本料理の真髄に迫りながら、食文化の維持・発展を穏やかに強調する究極のドキュメンタリーである。

自然の山海の恵みと伝統料理の美食を追及するスペインの若き料理人エネコ・アチャ・アスルメンディ氏（41）。フランスとの国境沿いにあるスペインのバスク地方で、スペイン史上最年少の３５歳でミシュラン三ツ星を獲得したレストラン「アスルメンディ」のオーナーである。再生エネルギーの観点から循環型の多機能農園をレストランの周囲に巡らせ、客は農作業の様子を見ながら料理を楽しめる。美食の元となる大地の恵みに思いを馳せ、自然保護の意識を高めてもらう意図もあるという。

アスルメンディ氏は、料理上手な祖母と母から素材の選び方から料理の技術などを伝授され、飽きの来ない家庭料理が基本だという。水深２０ｍのワイナリーや農園や海で採れる旬の素材に魂を込めて料理。そんな彼と、「すきやばし次郎」（銀座）の小野二郎氏の料理に対する考えを交互に紹介。西洋と日本料理の巨匠たちが最高の美食について語る姿は、国や地方によって大きく違う食文化を、「美味」というシンプルな観点で捉えていてとても分かりやすい。

「すきやばし次郎」の小野二郎氏は、２００７年にミシュラン三ツ星を獲得して以来現在まで連続獲得、しかもミシュラン史上最高齢の三ツ星獲得者。これは料理界のカリスマを超越して“ヨーダ”的存在かも。各国の要人や名シェフが訪ね来ては、「お会いできて光栄です」と最敬礼を示す。二郎氏曰く、「何でも好きなことだったら、いつまでもやれる。才能より修行が大事」と、現在店を切り盛りする長男の禎一氏をはじめ弟子たちの仕事に目を光らせる。そんな職人気質の９０歳の二郎氏が握る鮨は“エレガント”と言われている。

他にも、同じくカタルーニャ地方の三ツ星レストラン「サンパウ」のオーナーシェフ、カルメ・ルスカイエーダ氏は、「西洋人は濃厚で騒がしいが、日本人は物静かで瑞々しい感性を持っている」といい、日本出店については、「スペイン料理のイメージを変えたい。一流の仕事を知る国の人だから、未知なる味を提供したい」と、その意気込みを語る。

先ごろ亡くなったフランス料理界の巨匠、ジョエル・ロブション氏は、「ミシュランの星は自分との闘いである。星に似合う技術を維持しなければならない」。さらに、「「すきやばし次郎」で提供される魚は最高級ばかり。シンプルな食材を昇華しなければならない」と語る。他にも、日本料理の「龍吟」（日比谷）や「壬生」（銀座）が紹介される。几帳面な日本人らしく、毎日徹底して同じことを繰り返す鍛錬の積み重ねや、自分の思いや魂を料理に宿せる人こそ名人となり得るとことを教えてくれる。

私たちが見逃しがちな日本料理の真髄を、海外の料理人によって示されているようで、エクセレントなシーンの連続に興味津々。和楽器を軽快に配したトマス・サン・ミゲルの音楽にも心躍る。

（河田 真喜子）

公式サイト⇒ http://sekai-ryori.com/

(C)Copyright Festimania Pictures Nasa Producciones, All Rights Reserved.