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『テルマ』

 
       

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作品データ
原題 Thelma  
制作年・国 2017年 ノルウェー・フランス・デンマーク・スウェーデン
上映時間 1時間56分
監督 ヨアキム・トリアー(『母の残像』)
出演 エイリ・ハーボー/カヤ・ウィルキンス/ヘンリク・ラファエルソン/エレン・ドリト・ピーターセン
公開日、上映劇場 2018年10月20日(土)~YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル梅田、京都出町座、元町映画館、ほか全国順次公開

 

神秘の力がじわじわと心を凍てつかせる、
美しすぎるミステリー・ホラー

 

北欧発、少女に秘められた神秘の力が覚醒するホラー映画といえば、寂しいユトランド地方の漁村を舞台にした『獣は月夜に夢を見る』(2014デンマーク)を思い出す。母親の体の異形を不信に思いつつ、自らも徐々に発症する異形に悩む少女のダークホラー。また、アメリカでリメイクされた『ぼくのエリ200歳の少女』(2008スウェーデン)では、ヴァンパイアとして生きる少女と孤独な少年との出会いを恐怖と愛おしさで魅了した。『テルマ』も、夢か現(うつつ)か次々と起こる現象に戸惑いながらも、恐ろしい運命を背負う少女の孤独な探求を、瑞々しい映像美で圧倒する戦慄のラブストーリーである。


thelma-500-3.jpgノルウェーの山奥、凍てつく湖上を幼い娘を連れて狩りに出る父親。森の中で1匹の鹿が現れるが、猟銃を構える父親はなぜか可愛いらしい娘の方へと銃口を向ける……。


美しい少女に成長したテルマ(エイリ・ハーボー)は、初めて親元離れオスロの大学へ進学する。娘を心配して毎日電話をかけてくる両親。特に、医師をしている父親(ヘンリク・ラファエルソン)はテルマにとって大きな存在だった。


thelma-500-1.jpgある日、鳥の異常行動と共に始まった激しい痙攣がテルマを襲う。その時助けてくれたアンニャ(カヤ・ウィルキンス)の自由な解放感と美しさに魅了されながら、初めての経験を重ねていく。それは、敬虔なクリスチャンとして育てられたテルマにとって、両親との狭間で揺れ動く後ろめたさを生むことになる。こうして、時折襲われる痙攣と悪夢はテルマの周囲に不穏な事象を引き起こし、大切なアンニャまでも忽然と消えてしまう。


thelma-500-2.jpg痙攣の原因を探る検査の結果遺伝性を疑われ、そこで初めて亡くなったはずの祖母の存在を知る。幼い頃の記憶と過去の謎を解明するため、両親と対峙する時を迎える……。


深々とその冷たさが伝わってくるような静謐な映像美。凍てつく湖、雪に覆われた森の風景、一人っきりのプールのシーンや、地を這う大きな蛇が登場する夢のシーンなど。暴力的シーンはなくてもひたひたと忍び寄る恐怖に心理的ダメージを受ける。北欧らしい自然の神秘性に満ちた静かなミステリー感覚のホラー映画だ。


thelma-500-5.jpg監督は、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のラース・フォン・トリアー監督の甥のヨアキム・トリアー(44)。計算し尽されたような的確な演出で、得体の知れない存在感を恐怖として印象付ける映像のマジシャンのような若き監督である。オーディションでテルマ役を獲得したエイリ・ハーボー(24)は、かなり深く潜水するシーンが多いため水泳と飛び込みを習得し、痙攣についてもリサーチしたという。初々しい感性でもってテルマの繊細な心理を表現した新星は、新鮮な驚きをもって観る者を魅了する。


テルマとは何者なのか、どんな力を持っているのか、過去に何が起こったのか、両親は何を隠しているのか――その秘密が明かされる時、非情な運命を背負った少女テルマの、瞳の奥の未来に震撼することだろう。


(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://gaga.ne.jp/thelma

©PaalAudestad/Motlys

 

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